アンソフ・マトリクス

はじめに

基本的に企業は成長を目指すものです。

もちろん、維持するということも大事です。しかし、維持することだけを考えていたのでは、競争に負けてしまう可能性があります。「成長しよう」という勢いがあってはじめて維持が可能になると言って良いかもしれません。ビジネスの世界は厳しいものです。

さて、そこで問題なのは「成長」と言っても、どのような方向を目指していけばいいのか、ということです。つまり、大きくなるといってもその「成り方」ってものがあるわけですね。

例えば、人間の成長といっても、体重が増える、身長が伸びる、脂肪が増える、筋肉が増える、知識がつく、経験を積む、人格が磨かれる、などといったように、「成長」の内容があるわけですから、企業でも同じです。

その方向性を考えるための一つのフレームワークとして、「アンソフ・マトリクス」が有名です。「アンソフの成長マトリクス」とか、「アンソフの事業拡大マトリクス」などとも呼ばれています。

アンソフというのは、イゴール・アンソフ(Harry Igor Ansoff)という人の名前です。このアンソフという人、ロシア系のアメリカ人で、経営学者でもあり数学者でもあり経営者でもありと、かなり多彩な能力を発揮した方のようです(1918年〜2002年)。「企業戦略の父」と呼ばれているらしいです。

アンソフ・マトリクス

さあ、本題の「アンソフ・マトリクス」の内容に入っていきましょう!

マトリクスというのはこれから説明する図のような行列の形のことです。経営学の理論の中でもこの形はよく出てきます。

アンソフは横軸に「製品およびサービス」をとり、それが「既存」か「新規」かによって2つに分けます。つまりそれが「今すでにあるもの」を売るのか「新しいもの」を売るのかによって分けるのです。

そして、縦軸に「市場」をとり、同じくそれが「既存」か「新規」かによって2つに分けます。「市場」とは簡単に言えば、どんな人たちに売るかということです。「既存の市場」というのは今あるものを買ってくれている人たちの集合であり、「新規の市場」というのは新しいものを求めている人たちの集合です。

この「製品およびサービス」と「市場」の組み合わせの結果、図のように4つの組み合わせが出来上がります。

この4つの組み合わせにそれぞれ戦略の名称が付けられています。つまり「市場浸透戦略」「市場開発戦略」「製品開発戦略」「多角化戦略」の4つです。

だんだん難しくなってきたような気がするかもしれませんが、少し我慢してくださいね。それほど難しいことではありません。

市場浸透戦略

まず「市場浸透(Market Penetration)」ですが、これは図にあるように、既存の市場に対して既存の製品を売っていく戦略です。もっとも面白みのない戦略で、それのどこが「戦略」なんだと言いたくなるかもしれません。

しかしこれをバカにしてはいけません。今買ってくれているお客さんにこれから先もずっと買ってもらい、さらには他のお客さんにまで広げていければ、素晴らしいことです。

つまり自社の製品を文字通り「市場(お客さんの集まり)に浸み込ませる」ことをあれこれ考えるわけです。

たとえば、常にお客さんの目に入って記憶に残るような広告やCMを出すこともそうですね。これがうまくいけば安定した収入になります。うまくいっている商品があるならば、みすみすお客さんを他の会社に奪われるのはものすごくもったいないですからね。

地味なようで、実は大事な戦略だと思います。

市場開発戦略

次に「市場開発(Market Development)」です。これは新しい市場、つまり、いままで買ってくれていないお客さんを開拓する戦略です。今ある製品を別の市場に広げていくわけです。

たとえば、北海道で大ヒットした製品を全国に展開していく、日本で大ヒットした製品を中国に売り込んでいく、といったことです。エリア的なことだけでなく、若者に売れたものをお年寄りに売れるように工夫するとかもアリです。

いずれにしても、今ある製品の売り上げをさらに拡大するために、市場を開拓、つまり売る相手を探していくやり方です。

製品開発戦略

3つ目の「製品開発(Product Development)」ですが、これは今のお客に対して新しい製品を売り込んでいくやり方です。つまり「もっといいものができましたから是非どうぞ!」ということですね。

今ある製品、つまり既存の製品がいつまでも売れ続けるのならばいいのですが、他社も新しい製品を出してきますし、いつまでも同じだと飽きられてしまいます。そこで今のお客さんに対して、買い替えを迫るわけです。

ただ、そのためには新しい製品のための「新しい技術」とか、「新しいアイデア」が必要です。ですから、企業はこれを生み出すために日夜努力を重ねているのです。大変なことですが、ワクワクする仕事でもあります。

多角化戦略

最後に「多角化(Diversification)」です。図にあるように、新しい市場に対して新しい製品を売っていく戦略です。要するに、その会社にとって新しい分野に進出していくということです。

多角化ということは、つまり多方面に活動を展開すること。言い換えれば、いくつもの事業を同時に行うということですね。

有名な企業をよく観察してみるとわかると思いますが、1つの企業が実にいろんなビジネスをやっていますよね。たとえば、自動車会社が住宅や金融の事業をやっていたり、鉄道会社がデパートや不動産の事業をやっていたり・・・。

特に、大企業と言われるような大きな会社になると、たいていはいろんなことをやっているわけです。アンソフは、ここでの「市場浸透」、「市場開発」、「製品開発」をまとめて「拡大化」と捉え、企業の成長はこの「拡大化」と「多角化」との2面から成り立っているとしています。

中でも、市場も製品も新しい分野に進出しようとする「多角化」は、もっとも積極的な成長に向けたビジネス展開といえるわけです。

この「多角化戦略」ついては、いろいろと重要なポイントがありますので、別の機会に説明しましょう。

とりあえず、アンソフ・マトリクスはこのへんで。

本の紹介

アンソフの本を紹介しておきます。

ここで取り上げたのは、これです。かなり古い本なので中古しかありません。

かなり高いですので、大学の図書館などで探すといいでしょう。

H.I.アンゾフ著、「企業戦略論」(広田寿亮訳)、産業能率短期大学出版部、1969年

Corporate Strategy : An Analytic Approach to Business Policy for Growth and Expansion(McGraw-Hill, 1965)

他に代表的な本としては、これです。新訳がでていて、アマゾンなどでも手に入ります。

H.I.アンゾフ著、戦略経営論(中村元一監訳)、中央経済社、2015年

Strategic Management(Palgrave Macmillan, 1979)

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