多角化戦略 ータイプ、メリット、デメリット

多角化戦略 そのタイプ、メリット、デメリット

はじめに

多角化とは、現在の事業とは異なる新たなビジネスに進出することです。

アンソフのマトリクスで言えば、新しい市場に新しい製品を投入していくことです。アンソフはこの多角化がとても重要であると強調しました。

アンソフが主張したように、経営戦略においては大変重要で、実際よく行われているものです。

ここでは、ところどころアンソフの考えを取り上げながら、この多角化戦略について少し詳しく説明しておきましょう。

なぜ多角化が必要か?

そもそも、なぜ多角化が重要なのでしょうか。このことから考えてみます。

現在の事業が成功しているならば、何も他のことに手を出す必要はないと考えるのも一つの正解です。あれこれ手を出さず、自社の本業を貫くことがある意味で経営の王道かもしれません。他のことに手を広げるには、当然お金が必要になりますし、成功するかどうかわからないというリスクもあります。

しかし、その一方で、現在うまく行っているビジネスが、これから先もうまく行き続けるかどうかもわからないのです。

例えば、有力な競争相手が登場して売上を奪われる可能性もあります。ある会社が成功していればそこに参入して儲けてやろうと考えるのは当然です。

あるいは、現在うまく行っていても、その市場が成熟してこれ以上伸びなくなったり、市場そのものが急速に衰退してしまうこともあります。

このような状況に陥る可能性は、経営者ならば考えておかなければならないことです。ある意味で、一つの事業だけにとどまっていること自体がリスクになることもあるのです。

また、危機的な状況に陥ってから対応していたのでは手遅れになります。経営者ならば、環境の変化を敏感に捉え、自社が存続のために新たなビジネスを育てていく必要があります。

以上のような理由から、多角化戦略が必要となるのです。

多角化戦略a

多角化戦略のメリット

では、多角化することは、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。いくつか挙げておきたいと思います。

未利用資源の有効活用

1つ目として、「未利用資源の有効活用」という点です。

企業は既存の事業において成功を収めるために一生懸命に努力をします。その過程で、利用されていない様々な知識や技術が企業の中に蓄積されていきます。これが「未利用資源」です。

例えば、ビール会社は美味しいビールを作るために常に研究開発に勤しんでいますが、その中でビールには直接つながらない発明が生まれます。それらがビールとは関係ないからということで、そのまま放置されると大変もったいないですね。(実際、企業には商品化されない特許がけっこうあったりします。)

つまり、未利用な状態にある発明や知識を新たなビジネスの種にして、新しい市場に展開していく可能性が出てきます。もちろん、何でもかんでもうまくいくわけではありませんが・・・。

シナジー効果

2つ目に、「シナジー効果」という点です。

「シナジー効果」というのは「相乗効果」とも呼ばれます。「1+1が2以上になる現象」といった感じで書かれていることが多いですが、新しい事業が増えただけでなく、それによって既存の事業にもプラスになり、またそれが新しいビジネスに良い影響を与え・・・、という様に単なる合計以上のものになっていく効果と言えばいいでしょうか。アンソフはこれを「一種の結合利益」と言ったりしています。

例えば、鉄道会社が新たに不動産事業に展開したとします。沿線の郊外の土地を開発し、住宅を販売するような事業を行うことで、そこに住む人々が増えて鉄道の利用者も増えることになります。利用者が増えて駅周辺が賑わえば、さらに不動産事業も活発になり、鉄道利用者も増えて・・・、という具合です。

アンソフはこのシナジーについて、「販売シナジー」「生産シナジー」「投資シナジー」「マネジメントシナジー」の4つの効果を挙げています。何らかの共有部分があることによってこうしたシナジー効果が生まれます。

多角化が成功するためには、製品とか技術などに何らかの共通部分があることがポイントになるようです。つまり、何らかのシナジー効果を生むような、言い換えれば、既存の事業と「関連性」があるような事業に多角化していくほうが成功の可能性が高いということです。

リスク分散

3つ目に、「リスクの分散」を挙げておきます。

最初にも少し触れましたが、一つの事業に集中しすぎていると、その事業がダメになったときに、企業が一気に窮地に陥ることになります。ですから、多角化をしておくことによって、そのようなリスクを分散する効果があるということです。

多角化戦略のデメリット

ただし、多角化戦略はいいことばかりではありません。ここで少し、多角化戦略のデメリットというか、危険性のようなことについて付け加えておきます。

多角化することのリスク

最初の方でも少し書きましたが、多角化すること自体にリスクはつきものです。そもそもどんなビジネスでも全くリスクがないということはありません。既存の事業がうまく行っているからといって、全く新しい市場に進出していくわけですから、必ずしもうまくいくとは限りません。その意味で、多角化は慎重な判断のもとに行う必要があります。

特に、いろいろな事業に手を広げすぎた場合、資源が分散してしまったり、無駄な重複が生じてしまって、かえって非効率になったり、それぞれの市場で競争力が低下してしまうといったことが想定されます。

いわゆる「二兎負う者・・・」というやつです。新しい事業に力を入れようとして、既存の事業が手薄になり、そればかりか新しい事業も投入する資金や人材が中途半端になってしまってうまくいかず、どちらもダメという危険性です。

ですから、新しいビジネスを立ち上げる時に、一からはじめるとリスクも大きいし、時間もかかるので、M&A(合併・買収)で企業そのものや事業を丸ごと買い取ってしまうという方法をとったりもするわけです。

ドメインが不明瞭に

デメリットをもう一つ挙げるならば、多角化することで、その会社の本業とか強みが何なのかということがぼやけてしまうといったことも考えられます。「あの会社はいろいろやっていて、一体何の会社かわからない」というよりは、「〇〇ならば、あの会社」という方が信用が高いわけです。つまり「ブランド力」の低下ということですね。それは、会社の「存在意義」とか「社会的意義」に関わることでもあります。それが薄れることはあまり良いことではありません。

とは言っても、一つひとつの事業がうまく行っているならば、構わないと言えば構わないのですが・・・。

ここまで、多角化戦略について少し詳しく説明しました。実際に、会社がどんなことをやっているのか、ホームページなどで調べてみるといいと思います。例えば、トヨタと言えば自動車ですが、その他にどんなことをやっているでしょうか?サントリーと言えば、ビールやワインなどがよく知られていますが、他にどんなことをやっているでしょうか。そして、本業とそれら多角化した様々な事業はどんな関連性を持っているでしょうか。そんなことを調べてみると、結構おもしろいと思います。

多角化戦略b

多角化の先の課題

先ほど、M&Aで企業や事業を手に入れて、多角化するということを書きましたが、資金力のある会社はその手法でどんどん事業を広げ、本当に様々な分野のビジネスを抱える企業に成長しています。

ここで挙げた、集中型や集成型はまさにM&Aによって他企業をどんどん取り込んでいく手法によって可能になります。アンソフもこのような多角化を想定していたようで、1960年代のアメリカの企業はまさにそのようなプロセスで巨大化していきました。このような複合企業体を「コングロマリット」と呼んだりします。

そうなると、次の問題が出てきます。つまり、多くの事業を抱えた巨大な企業体になると、それらを全体としてどのようにコントロールするのか、という次の課題に直面するのです。これがうまくいかないと、先に述べたデメリットの面がクローズアップされてくることになります。

また、場合によっては、ある一つの事業の大失敗が企業全体を揺るがす問題に発展することにもなります。そうなってしまっては、一体何のために多角化したのかということになってしまいます。

このように、様々に事業展開をした超大企業にも、独特な課題があるのです。この点については、別の記事(PPM)のところでも説明したいと思います。

補足:多角化のタイプ

一口に多角化と言っても、いくつかのタイプがあります。ここでアンソフが整理した多角化戦略のタイプを簡単に取り上げておきます。

アンソフは、多角化を「水平型」「垂直型」「集中型」「集成型」の4つに分けています。

水平型」は同じタイプの顧客に向けて新たな製品を提供するもので、例えば自動車会社がオートバイや家電製品の分野に進出するといったものです。

垂直型」は、いわゆる「川上」「川下」に展開するものです。川上・川下というのはモノの流れを川に例えて、その企業から見てモノが流れてくる側(供給側)を川上、その企業から見てモノが流れていく側(需要側)を川下というわけです。例えば、自動車会社が、これまで作ってなかった部品や素材(川上)、これまで持っていなかった販売店網(川下)、に展開するといったものです。

「集中型」と「集成型」については、製品と顧客の内容によって異なります。製品の技術に関連性があるのかないのか、顧客がこれまでと類似しているのかしていないのか、という組み合わせによるのです。

先に「集成型」から。これは製品の技術的な関連がなく、顧客もこれまでと違う新たな顧客にアプローチする多角化です。どちらも既存のものと関連ありませんから、それこそ既存事業とは全く関係分野なわけです。

集中型」は製品の技術関連性があって顧客も類似している場合と、そのどちらかがある場合です。言い換えれば、「集成型」以外の組み合わせです。なんらかの関連性があるので、「集成型」よりもシナジーが働き、リスクも少なくなります。

もっと詳しく学びたい人のために

H.I.アンゾフ著『企業戦略論』産業能率短期大学出版部、1969年

H.I.アンゾフ著『企業の多角化戦略』産業能率短期大学部、1972年

これらはアンソフの戦略論についての本です。古いので残念ながら古本でしか手に入りません。一応、参考までに・・・。大学の図書館などにはあるかもしれません。

H.I.アンゾフ著『アンゾフ戦略経営論』中央経済社、2015年

これはまだ手に入ります。1979年に出版され、比較的最近に復刻されたものです。やはり古典は価値があるものなのです。

経営学史学会(監修)、庭本佳和(編)『アンソフ(経営学史叢書)』文眞堂、2012年

経営学史学会監修の全集の一冊です。アンゾフを複数の研究者が論じたものです。これは入手可能です。

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