PPM

はじめに

今回は「PPM」という理論について説明します。PPMというのは、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントのことで、Product Portfolio Managementの頭文字をとって「PPM」と呼んでいます。

経営戦略やマーケティングの教科書にはたいてい登場するとても有名なものです。

これはアメリカの経営コンサルティング会社であるボストンコンサルティンググループ(BCG)が開発した手法で、「BCGマトリクス」とも呼ばれたりします。

多角化戦略の説明をした記事で述べましたが、企業は成長を目指して多角化を行いますが、多くの事業を抱えた企業は別の新たな課題に直面します。すなわち、多くの事業を全体として最適な形で運営できなければ、かえって企業の衰退を招くことになるということです。

ビジネスとしてうまくいっていない事業は切り捨て、成長が期待できるビジネスには積極的な投資をしていくべきですが、それをどのように判断すべきでしょうか。せっかく可能性の大きな製品を生み出してもお金かけるべき時にかけなければ成長しませんし、衰える一方の事業をいつまでも抱えていては企業全体の利益を圧迫してしまう可能性があります。

いわゆる「選択と集中」の問題です。それらを判断するのは、企業の経営層なのですが、そこがなかなか難しいところだったのです。

このPPM理論はそのような経営者の悩みを解消する画期的なものだったのです。そんなことから、1960年代後半以降のアメリカの大企業の間で大いに注目されることになったわけです。

今回のテーマはこのPPMなのですが、この理論のベースには「経験曲線」と「プロダクトライフサイクル」というものがあります。そこで、PPMを説明する前に、この二つをかんたんに見ていきましょう。

経験曲線

「経験曲線」とは、かんたんに言えば、たくさん作った経験のある方が安く物を作ることができるということを表しています。

もう少し正確に言えば、製品の「累積生産量」が増えれば増えるほど、製品1単位当たりの生産コストが一定の割合で低下していくということです。ここで、「累積」となっているのに注意して下さい。「今月いくつ作った」「今年いくつ作った」というのではなく、「これまでに全部でいくつ作った」ということです。

例えば、累積生産量が2倍になると20〜30%安く作れるようになり、さらに4倍になると30〜40%安く作れるようになるということです。このような効果を「経験効果」と呼びます。図にするとこんな感じになります。

なぜこのような効果が生じるのかということですが、そこには「習熟効果(仕事に慣れることによる時間の短縮など)」、「技術の改善」、「生産工程の改善」、「規模の経済性」などがあると考えられています。要するに、たくさん作った経験があると、そこには多くのノウハウや情報が蓄積されていくということなのでしょう。

では、このことが何を意味するのでしょうか?

そうです。「経験曲線を他社よりも早く進んだ方が有利」ということですね。安く作れるということは、価格競争をしても他社よりも余裕があります。つまり競争で有利なのです。どこよりも早く経験曲線を進んでいるということは、どこよりも多く売ったということでもあり、それは通常その市場で高い占有率(シェア)を得ているということになります。市場占有率が高いということは、その市場で「強い」ということです。

プロダクトライフサイクル

さて次に、「プロダクトライフサイクル」です。プロダクトというのは製品のことです。ですから、製品が誕生してからなくなるまでを、我々人間の一生に例えているわけです。

論者によって若干違いはありますが、ここでは製品の一生を4つの段階に分けます。つまり、「導入期」、「成長期」、「成熟期」、「衰退期」の4つです。

図にすると、だいたいこんな感じになるのですが、ここには各期に応じて売上と利益がどのように変化していくかが描かれています。

「導入期」は製品が市場に投入されてヒットし始める前の段階です。この段階ではまだ利益は出ていません。いろいろな準備のためにお金がかかっているので、むしろ赤字です。しかし、ここが大事な段階です。ここでしっかり育てていかないとこのまま消えてしまいます。ほったらかしておいては成長しませんし、せっかく良いものでも日の目を見ずに終わってしまいます。(何もしなくても何かの影響で売れる場合もありますが)

「成長期」はブレイクしてどんどん伸びていく段階です。このあたりから利益が次第に出るようになっていきますが、油断はできません。ライバルとの競争に打ち勝ち、ブランド力をつけていく必要がありますので、まだまだお金がかかります。その意味では導入期と似ています。

「成熟期」はピークを迎える段階です。どんなに良いものでもいつかは頭打ちになります。ですが、この段階が一番儲かる時です。もう投資した分は回収し、あとは売れれば売れるほど利益になっていきます。この状態をなるべく長く保つというのがここでのポイントになります。

「衰退期」は文字どおり、縮小していく段階です。しかし、利益は落ちていくものの、すぐにゼロになるわけではありませんし、それなりに利益は出ます。ですから、このような段階になったらあまりお金をかけません。続けるか、いつやめるかというのがここでの判断になります。

以上が4つの段階の説明ですが、これのベースには「経験曲線」があります。このカーブを早く成長・成熟と進んでいくと、経験効果が効いて有利になり、利益が多く見込めるということです。

プロダクトライフサイクルについては、ここではこの程度にしておきますが、マーケティングでも重要な話題ですので、機会があればその際にもっと詳しく説明いたいと思います。

PPM

さあ、いよいよ本題のPPMです。これについては、あまりにも有名な図があります。マトリクスを描くので、BCGマトリクスと言ったりします。それはこのような図です。

縦軸に市場成長率、横軸に市場占有率をとります。市場成長率が高いということは売上の伸びが大きいということです。そして市場占有率(シェア)が高いということは、その市場の中で大きな売上を占めているということです。

この二つの軸によって4つの組み合わせができます。

どういうことかと言うと、企業が抱えているいろいろな事業を、市場成長率と市場占有率によって4つのグループに分類すれば、それぞれに対して適切なアプローチをして、会社全体をうまく運営することができるだろうということです。

まずは「問題児」。

面白い命名です。市場成長率は高いが、市場占有率が低い製品です。伸びていますが、まだまだこれからという感じです。でも、うまくいくかどうかも不確実です。だからこそ、しっかり手をかけて育てていこうという製品です。だから「問題児」なのですね。「大きく化けるかもしれないけど、はたしてどうかな?」って感じです。

「花形」はマークの通り、「スター」です。

成長率も占有率も高くなっています。目立つ存在です。ですが、市場成長率が高いということは、激しい熾烈な競争を勝ち抜かなければならないかもしれません。ですので、打つべき手を打って安定した状態にもっていく必要があります。

「金のなる木」は市場成長率は低くなっていますが、市場占有率が高い状態です。

市場の伸びは低いのであまり投資を必要としませんが、占有率が高いので安定して収益を上げられるようになっています。だから「金のなる木」です。

「負け犬」はどちらも低い状態。

まあ、良くはないですね。市場も伸びていないし、その中で占有率も低いわけですから。このような製品は今後撤退するか、あるいはほとんどお金をかけないで、合理化する対象となってきます。

そしてこれをライフサイクルの観点から見ると、製品は、問題児(導入)→花形(成長)→金のなる木(成熟)→負け犬(衰退)、という展開をしていくように推測できます。

PPMの考え方

問題はこれをどう利用するかですが、企業の抱えている事業がそれぞれどのような状態にあるかがわかれば、お金の使い方(投資)などの判断が変わってくることになるのです。つまり、限られた資源を有効に「配分」していくことができるということです。

企業にとって現時点で望ましいのは「金のなる木」です。しかし、いつまでも金のなる木であり続けるとは限りません。ですから、次の金のなる木を育てていく必要があります。それは、「花形」であり、「問題児」です。

つまり、金のなる木で稼いだ資金を、問題児や花形に投入していくという判断になります。また、負け犬に該当する製品は市場から撤退することも検討していく必要があります。

このように、PPMは企業が持っている多くの事業を企業全体で把握し、資源配分していくための判断ツールと言えます。「選択と集中」のための見える化といってもいいでしょう。その意味で、経営者にとってはとても便利でわかりやすいものだと思います。

PPMの限界

ですが、PPMだけでうまくいくでしょうか。というと疑問もあります。ここでいくつか挙げておきます。

例えば、プロダクトライフサイクルはあくまでも一つのモデルであって、必ずそうなるというものではありませんし、時間軸も製品によって長かったり短かったりします。それを一つのマトリクス上で分類して果たして適切な分析が可能か、という疑問が出てきます。負け犬に分類されるものが、手の入れ方次第では花形になる可能性があるかもしれません。

また、市場占有率の基準は経験曲線が前提になっているわけですが、経験曲線がどの分野にもあてはまるとは限りません。この前提が通用しなければ市場占有率で分類する意味がなくなってきます。

そのほか、キャッシュフローといった財務的な面しか見ていないとか、シナジー効果を考慮していないとか、判別しにくい中間はどうするのか、とか様々な批判があります。

とは言え、満遍なく投資するとか、一律にコストダウンするといった、メリハリのきかない判断をするのではなく、一定の基準で事業をチェックし、適切な資源配分をしていこうとする考え方自体は評価できるものと考えます。

そもそも多くの事業を抱えた企業体の複雑で高度な意思決定をPPMだけでやれると考えるほうがおかしいわけです。当然のことながら、色々な経営判断ツールのうちの一つと考えるべきでしょう。

補足:「市場占有率」について

ここではものすごくかんたんにするために、マトリクスの横軸を単に「市場占有率」としてありますが、正確には「相対的市場占有率」です。

ざっくり説明するためにこれでいいかと思ったのですが、やっぱり説明しておきたいと思い、ここで補足しておきます。

「相対的」とは何かというと、かんたんに言えば「業界の他社と自社を比較してどうか」ということを意味します。

ここでは自社の事業が業界の中でどのような位置につけているのかを表すわけです。そこで、次のような計算式で出します。

「自社の市場シェア/自社を除く最大競合他社のシェア」

具体的な例で説明します。ある業界で自社が20%を占めていて、自社以外の最大シェアの会社が50%を占めているとします。そうすると、

20%/50%=0.4

で、自社の相対的市場シェアは0.4となるわけです。

また、自社が業界トップで40%を占めているとして、自社を除く最大シェア(つまり2番手)の会社が20%ならば、(40%/20%=)2です。

自社が業界トップならば1以上になるということですね。

相対的市場シェア(横軸)は、1を基準にとります。つまり、「花形」と「金のなる木」は業界でトップの位置にいるということになります。

ちなみに市場成長率(縦軸)はその業界の状況によって異なります。

とりあえず、PPMはこの辺で終わりにしておきます。

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