ブルー・オーシャン戦略

はじめに

今回は比較的最近、世界的に大きな注目を浴びた戦略について説明します。

「ブルー・オーシャン戦略」という名称の戦略論です。なんだかこれだけですごくカッコいい感じがします。日本語で「青い海」。何かを喩えているわけですが、わかるでしょうか?

この戦略論は、W・チャン・キムとレネ・モボルニュの二人が2005年に発表したもので、43カ国語で出版され、350万部の売り上げを記録したそうです。内容的にも非常に興味深いものです。ここでは、この戦略をかんたんに紹介してみたいと思います。

レッド・オーシャン

まず、ここで「オーシャン」と言っているのは何かというと、「市場」のことです。企業が製品やサービスを売ろうと頑張っている市場を海に喩えているわけです。

ただし、その海にも2種類の海、「ブルー」と「レッド」があるとしています。色で表していますが、先にレッドから説明していきましょう。

レッドは「互いに傷つけあう戦い」のイメージ、「血」の色です。つまり、各企業が現在ある製品やサービスの価格を下げたり、少しずつ改良を加えたりと、互いに身を削り、血みどろになりながら厳しい戦いを繰り広げている市場のことです。

大抵の企業はこのような厳しい競争を日々繰り広げているわけですが、そこでの戦いの形はある意味で常識的なものです。どこもよりも安く作り、安く売れるように努力を重ねるか、あるいは他にない何かを「ウリ」にして顧客を獲得しようとするかのどちらかでしょう。前者を「低コスト」、後者を「差別化」と呼びます。

製造業におけるコスト削減の努力や、小売業の低価格競争は本当に大変なもので、競争する企業が互いに傷だらけになっていく「レッド・オーシャン」の喩えがしっくりきます。差別化も市場が成熟してくるとなかなか「他と違う何か」を見出しにくくなりますし、モデルチェンジも「いったいどこが変わったんだろう」といった感じになっていきます。

「ブルー・オーシャン戦略」はこの「レッド・オーシャン」から抜け出すことを考えるわけです。

ブルー・オーシャン

「ブルー・オーシャン」は競争者のいない新たな市場のことです。血みどろの戦いをするのではなく、競争と無縁な新しい市場を見つけ、そこでビジネスを展開するのが「ブルー・オーシャン戦略」です。

ぶつかり合う敵がいないので、悠々とビジネスを展開できるということです。

血みどろのレッドに対して、「ブルー」というのはうまい喩えだと思いますし、希望が湧いてくるようなニュアンスがあります。青い海を独り占めにして悠々と泳ぐようにビジネスを展開できるとすれば、夢のような話です。

言うのは簡単ですが、そんなことが可能なのだろうかと疑いたくなります。

レッド・オーシャンで戦う企業も、好きでそんな厳しいビジネスを続けているわけではありません。「そんなやり方ができるならやっているよ!」というのが本音ではないでしょう。

では、その「ブルー」な市場はどこにあるのでしょうか?

それは、どこか別の市場に行くわけではないのです。

ブルー・オーシャンの考え方は、「新しい価値を創造」することであり、他の企業が気が付いていない「新しい需要を生み出す」ということです。別の言い方をすれば、今あるビジネスの常識に囚われないということです。

と言っても、なんだかピンとこないと思いますので、次に事例を挙げながら説明していきましょう。

ブルー・オーシャン戦略の事例

ここでは、二つほど事例を紹介しながら、「ブルー・オーシャン戦略」を理解していきましょう。どちらも近年急速に成長した企業です。

QBハウス

まず一つめは、1000円カットで有名になったQBハウス(キュービーネットホールディングス株式会社)です。

1996年に東京で1号店を出した後、急速に店舗数を拡大し、2018年時点で国内552店舗、海外に119店舗(アメリカ、台湾、香港、シンガポール)を展開するまでになっています。同年には東証一部上場をはたしており、ヘアカット専門業態ではダントツでトップの店舗数を誇ります。

そもそもヘアカット専門のチェーンという新しい業界を作り上げたのがQBであり、そこがまさにブルー・オーシャン戦略なわけです。

利用したことがある方にすれば今さらなのですが、QBのサービスの特徴は、「カットのみ」、「約10分で1000円」、「待ち時間がわかる」、「便利な立地」といったところでしょう。

では、理美容業界、特に男性の場合の常識はどういうものだったか考えてみましょう。カットだけでなく、シャンプー、髭剃り、マッサージなどがワンセットの儀式のようになったサービスで、1時間前後かかり(だから休日に行くことになる)、3000円から5000円といった感じでしょうか。QBが目をつけたのはこの常識です。

それほどヘアスタイルにこだわりがない人にとって、また働いている人にとって、理髪店に行くというのは、時間もお金もかかる面倒なものです。それだけで休日の半分がつぶれてしまうのも嫌だし、シャンプーも結局ウチに帰って自分でするし、髭剃りも次の日の朝には仕事前にするし、カットだけチャチャっとやってもらえたらいいのです。

そう思っている人は多くいたのでしょうが、そこに気づいてあのような大胆なビジネスモデルを作り上げる人がいなかったのです。

軽く調べただけですが、理美容室の数は全国でコンビニよりも多く、6倍以上もあるそうです。もちろんいろんなタイプがあるので、すべてが競合するわけではありませんが、お客の奪い合いはかなり厳しいものがあるでしょう。QBハウスはそうしたレッド・オーシャンの中にブルー・オーシャンを見出したわけです。

実際、私も利用したことがありますが、上に挙げたことに加えて、無駄に世間話をしなくて良い、ということもメリットです。何か話をしなければいけないというのはそれだけで気疲れします。

それはともかく、QBハウスのポイントは、常識だったサービスを「捨てた」ということであり、生活の中での「散髪」の価値観を変えたということです。

JINS

次の事例は、メガネのJINS(株式会社ジンズ)です。実は私も愛用者の一人です。

JINSは2001年福岡県天神に1号店を出店し、2019年2月時点で国内362店舗、海外では中国、台湾、アメリカ、フィリピン、香港に展開していて、2013年に東証一部上場をはたしています。

では、それまでのメガネ業界の常識はどのようなものだったかというと、「なんだか高い」、「時間がかかる(何日か後にまた行かなければいけない)」、そして「メガネは目の悪い人が使うもの」、という感じでしょう。

JINSはそれを覆すビジネスモデルを考えたわけです。「低価格でシンプルな価格設計」、「短い待ち時間で受け取れる」、「機能性アイウェアという新しい視点」などが特徴として挙げられるでしょう。

安いので、オシャレとして、いくつもメガネを持つこともできます。早いし、便利な場所にあります。そして、花粉対策用やPC用などのように視力とは異なるニーズを捉えているところも面白いです。最近はオンライン販売にも力を入れています。

JINSの戦略のポイントは、メガネは高くて当然、時間がかかって当然という業界の常識を覆したところであり、目の悪い人のためだけでなく、メガネの新しい機能を「付け加えた」ところでしょう。

ブルー・オーシャン戦略のポイント

事例を二つだけ挙げましたが、これらからわかるように、大事なことはレッド・オーシャンからブルー・オーシャンへと言っても、どこか別の世界に行くわけではないということです。その市場に新たな価値、新たな需要を生み出すのです。

ブルー・オーシャン戦略では、これを「市場の境界を引き直す」ことだと言っています。

また、これをもう少し具体的に次のように説明しています。

それは「何かを減らし、取り除き、付け加え、大胆に増やす」ことです。

例えば、QBハウスの場合は、余計と思われるサービスを「取り除いた」ということです。

問題はその「何か」をどう見つけるか、ということですね。ここのところは分析と創造力が必要でしょう。

補足:ブルー・オーシャンもいつかは・・・。

ここまでブルー・オーシャン戦略を説明してきましたが、最後に少し付け加えておきます。

それはブルー・オーシャン戦略で成功しても、ブルーはそのうちにレッドに変わる可能性があるということです。つまり、成功事例を見て他の企業がそれを模倣して参入し、結局は厳しい競争の市場になっていくということです。

例えば、QBハウスは現在も業界トップですが、2位、3位が追い上げてきます。最近、QBはスタイリストの採用・育成の必要性から1200円に値上げをしましたが、1000円を維持する同業者もいます。つまり、同じような競争になると結局はレッドになっていきます。ブルーを維持するには、新たな価値を生み出し続けていく必要があります。

「終わりがないのだなあ」と思います。

あるいは、マネのできない何かを持つ、マネをしても意味がない程に圧倒的なトップになる、ということでしょうか。

詳細はやはり本を読むべきですね。W・チャン・キムとレネ・モボルニュ著の本を紹介しておきます。基本的にどれも新品で手に入ると思いますが、2を読めば良いと思います。

1、『ブルー・オーシャン戦略』(有賀裕子訳)ランダムハウス講談社、2005年

2、[新版]『ブルー・オーシャン戦略』(入山章栄監訳、有賀裕子訳)ダイヤモンド社、2015年

3、『BLUE OCEAN SHIFT』(有賀裕子訳)ダイヤモンド社、2018

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