イノベーション ー「創造的破壊」が新たな需要を生み出すー

シュンペーターによるイノベーション

「イノベーション(innovation)」はビジネスの中で頻繁に使われる言葉です。

例えば、「わが社に求められているのはイノベーションを起こせる組織だ」とか。「否定ばかりしていてはイノベーションの芽を摘むことになる」とか。

日本語では「技術革新」、「新機軸」などと訳されることが多いようですが、この「イノベーション」という言葉、どのような意味を持っているのでしょうか。

実は、この概念は企業の成長や経済の発展に大変重要なものなのです。

イノベーションを語るには、まずヨーゼフ・シュンペーター(Joseph Alois Schumpeter)を取り上げなければならないでしょう。なぜなら、この概念を最初に提唱したのはこのシュンペーターだと言われているからです。

イノベーションの定義

シュンペーターは1883年にオーストリア・ハンガリー帝国(後のチェコ)生まれた経済学者で、イノベーションは彼の理論の中心概念としてよく知られています。

シュンペーターは同時代のジョン・メイナード・ケインズと並んで20世紀前半の代表的な経済学者の一人とされていて、あのドラッカーもシュンペーターの影響を強く受けたそうです。

イノベーションについては、彼が1912年に著した『経済発展の理論』という本で述べられているのですが、初期の頃は「新結合」という言葉を使ってこの概念を説明しています。実はもう100年以上も前のことなのですね。

まず言葉そのものについてですが、日本では「技術革新」と訳される場合がわりと多いのです。しかし、これだと内容がかなり限定されてしまいます。

ですので、もっと大きく捉えてイノベーションとは「革新」、すなわち何らかの「大きな変化」「根本的に新しくなること」「これまでの常識が覆るような新しいこと」くらいのニュアンスでいいと思います。

たしかに、新しい製品やサービスが登場するときには、そのベースに新しい技術があったりする場合が多いのですが、必ずしもそうとは限りませんし、技術だけでは新しい何かを生み出すことはできません。

例えば、音楽をダウンロード配信できる技術が生まれても、音楽配信に利用しようというアイデアがなければなりませんし、実現していくまでに様々な環境を整備していく必要があります。

どんなことをイノベーションと考えるか

シュンペーターは、新しい技術が生まれることだけでなく、そもそも「新結合」と言っているように、すでにあるものを新しく組み合わせることや、組み合わせ方を変えることをイノベーションの概念として説明しています。

現代で見ると、スマートフォンというものはまさしくイノベーションだと思いますが、それはすでにあった携帯電話とタッチパネルとカメラなどの技術を組み合わせることで出来上がったポケットに入るパソコンなわけです。そしてそれは我々の生活を大きく変えたのです。

では、どのようなものをイノベーションというのか、もう少し具体的に見ていきたいと思います。シュンペーターによれば、イノベーションは次の5つの場合を含んでいるとしています。

①新しい製品・サービスを生み出す

②新しい生産方式の導入

③新しい販路・市場の開拓

④原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得

⑤新しい組織の実現(独占的地位の形成あるいは独占の打破)

このように見ると、企業活動のあらゆる局面における「新しいこと」がイノベーションだということになります。

①は製品やサービスそれ自体、つまり今までにない新たな製品・サービスを生み出すというイノベーション

②は生産プロセス(作り方)のイノベーション

③はどこで誰に売るかといったマーケットのイノベーション

④どこからとか、何をどのように仕入れるかというイノベーション、言い換えればサプライチェーンのイノベーション

⑤は新たな組織を作り出すというイノベーションで、独占的な地位を築き上げたり、あるいは既存の独占的な組織を打ち破る新しい組織を作ること

イノベーションというと、①のことだと思っている方が多いのではないかと思いますが、シュンペーターはこのように捉えていたのですね。

先に書いたように、このように見ると、何でもかんでも、今までになかった新しい企業の活動はほとんど全部イノベーションということもできます。

何だかいい加減な感じがするかもしれませんが、個人的には、「これはイノベーションだが、あれは違う」といった厳格な線引き自体にあまり意味がない気もします。

創造的破壊

ただし、「新しい」ということの意味に関連して、シュンペーターは「創造的破壊」ということを言っています。彼にとっての「革新」は、いまあるものがだんだんと良くなっていくという「連続的」な変化ではなくて、従来のものの価値を破壊するような全く新しい価値を生み出す「非連続」な変化です。それまでの流れを断ち切るような新たなものです。

シュンペーターはこの「創造的破壊」が起きることによって、経済が発展していくとしています。どういうことか、例を挙げてざっくりと説明してみます。

ある企業が画期的な製品を開発し、それが市場に出回り、大きな利益を得たとします。そうすると他の企業がそれを真似て、参入するようになります。さらに製品は多く出回り、多くの人の手に入るようになります。そうなると企業はその製品を少しでも多く売るために、少しずつ改良を重ねて、他の会社のお客を奪おうと努力をします。お互いに必死になって営業を行います。

しかしそのような状態は行き詰まった状態であり、成熟し安定しているようで実は停滞しているのです。もうこれ以上市場(パイ)は大きくならず、互いに今あるパイを奪い合う状態が続くのです。

例えば、先に挙げたスマートフォンの市場が今まさにそうですし、携帯電話のキャリアもそうですね。お互いにお客を奪い合っている状態です。

この状態を打破するのが「創造的破壊」です。イノベーションを起こし、新たな需要を生み出し経済を発展させていくための「破壊」であり、「破壊のための破壊」ではありません。

つまり、創造的破壊につながるような、悲連続な変化を生み出すのがイノベーションだということになります。

イノベーション、企業家、銀行家

シュンペーターによれば、景気が良くなったり悪くなったりするのは仕方がないと考えます。それは仕方のないことで、景気を循環させることが大事だと考えます。

イノベーションが起こり、景気が良くなり経済が成長する。そしていずれ成熟しして経済が停滞し、景気が悪くなる。またイノベーションが起こり・・・。というサイクルを繰り返して経済は発展していくということです。

そう考えると、イノベーションが起きることは経済にとってとても重要です。そして、その担い手こそが、「企業家」だとしたのです。

「企業家(entrepreneur)」とは安定した経済社会における企業のトップにいて、既得権益にしがみついている経営者のことではありません。新しいことにチャレンジする野心的な人々、イノベーションを起こす人々のことです。新しい技術、新しいビジネスモデルのアイデアなどを手に、社会を変えていこうとする野心と強い精神を持った人々のことです。

ですが、そういった人々が最初からイノベーションを可能にするような資金を持っていることはまれです。そこで「銀行家」の登場です。かれら「企業家」に投資をし、ビジネスのチャンスを提供する人々のことです。「企業家」とともにリスクを取れる、勇敢で優れた洞察力を持った「銀行家」の存在が極めて重要です。

要するに、「イノベーション」「企業家」「銀行家」の3つが揃って、「創造的破壊」が起こり、経済が成長していくというわけです。

まあ、100年も前の話ですから、今はいろいろと事情が変わっています。資金調達の仕方も、現在では随分選択肢が増えました。余談ですが、日本の経済がいつまでたってもよくならないと言われていますが、成長のカギを握っているのは、「銀行」かもしれません。

イノベーションを起こすには

企業を成長させ、経済を発展させるわけですから、イノベーションは経済社会の中で非常に重視されています。多くの企業、研究機関等が、イノベーションを起こすことだけでなく、イノベーションを起こすにはどうしたら良いかを研究しています。

そもそも起こそうと思って起こせるものなのか、という議論もあるし、いかにして「偶然」をイノベーションにつなげるか、という議論もあったりして、この分野はとても興味深いです。私はこの分野の研究者ではありませんが、とても面白いと思います。

なんとなく考えるのは、顕在化したニーズ、つまりすでに認識されているニーズに応えるという発想では無理なのでしょう。「自分が欲しいもの、自分が作りたいものを作る」。Appleのスティーブ・ジョブズ氏がそんなことを言っていたと思いますが、ある意味わがままで、そして常識にとらわれない自由な思考が大事なのでしょう。そして、イノベーションを好まない、それどころか妨害するような人々を気にしない強さ、場合によってはそれらを蹴散らす強さが必要にもなるでしょう。

とりあえず、シュンペーターとイノベーションについてはこの辺にしておきます。

<参考文献>

シュンペーター『経済発展の理論』(上)(下)、岩波文庫

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