テイラーの科学的管理法 ー経営者と労働者の繁栄を目指してー

テイラーについて

テイラー(Frederick Winslow Taylor 1856-1915)という人は、主に経営学の世界で「超」がつく有名人です。「経営学の父」とか「科学的管理法の父」とか言われることがありますが、要するに現代の経営学の始まりとなった人です。

1915年に亡くなっていますから、没後100年以上になります。ですから、経営学の歴史もそれ位だということですね。100年というとかなり前のようですが、経済学の歴史などから比べると、経営学はまだまだ新しい学問だと言えます。

さて、テイラーはフィラデルフィアに生まれ、ハーバード大学に進学したとても優秀な人です。しかし、目に病を患って大学を続けていけなくなり、退学して工場で働くことになります。このことだけならエリートの可哀想な挫折ですが、人生というのはわからないものです。工場で働いた経験があったからこそ、テイラーは「科学的管理法」を生み出し、歴史に名を残すことになったと言えるかもしれません。

というわけで、今回は経営学の源流についてのお話です。

「科学的管理法」とは

テイラーが直面した工場の現状

「科学的管理法」がどのようなものかという話に入る前に、テイラーが働いた19世紀末頃のアメリカの工場がどのようなものだったのか、というところから見ていきましょう。

その約100年前にイギリスで産業革命が起こり、アメリカでも産業が急速に発展していく時代でした。しかし、当時の工場はいろいろと酷いものでした。経営者と労働者は対立し、工場の管理も経験とカンに基づく「成り行き」で行われていました。

労働者の賃金が、例えば出来高給(働いた分だけ支払われる仕組み)の場合、労働者が頑張って働いた分だけ給料が増えるはずです。しかし、経営者側はそれを目の当たりにすると、「本当はもっと頑張れるんじゃないの?」「手を抜いているんじゃないの?」と考え、賃率を下げるのです。そうなると労働者は頑張っても手取りが増えません。そうなると労働者はどう考えるでしょうか。

「頑張って能率を上げても給料が変わらないなら、頑張っても頑張らなくても同じだよ。だったら頑張らないもんね」ということになります。そして1人だけ抜け駆けは仲間はずれになっちゃうので、みんなでサボるというわけです。

これが「組織的怠業」というものです。

そんなことは経営者も見抜きますから、労働者を叱ったり、場合によってはクビにしてしまうわけです。力関係では経営者が上なので労働者にとっては恐怖ですが、みすみす酷使されるのは納得がいきません。経営者も働く人がいなくてはどうしようもないですし、できれば気持ちよく工場を経営できた方が良いに決まっていますが、どうしたらいいかわかりません。

こんな風に、当時のアメリカの工場では経営者と労働者の間で「不信感」がものすごく高まっていたのです。こんな状況では誰のためにもなりません。テイラーが直面したのはこのようなどうしようもなく行き詰まった工場の現実でした。これをなんとかしようということで生み出されたのが「科学的管理法」です。

労使対立の原因

では、なぜこのような「対立」が生じたのでしょうか。

頑張って能率を上げても時給を下げられ、努力が報われないとしたら、誰だってそんな工場で働きたいと思いませんよね。当然のことです。

一方で、経営者の立場になって考えてみましょう。頑張って働いたとはいうけど、「本当に頑張ってるのか、もっと頑張れるのに手を抜いているんじゃないだろうか」、と疑う気持ちもわかる気がしませんか。

問題はこの両者の間の曖昧になっている部分です。

かんたんに言えば、「どれだけやったら頑張っていると言えるのか」が客観的に明らかにされていないからです。それが明らかになれば、お互いに納得して働けるのではないかと、テイラーは考えたのです。

「科学的管理法」の考え方

つまり、作業の効率的な方法を決めて、そのやり方を教え、どれだけできれば評価に値するかを測定し、その上で作業効率に応じて賃金を決めることを目指したのです。それまでの経験やカンに基づくいいかげんな管理に対して、客観的で合理的な管理によって工場を運営することを考えたのです。

対立ばかりだった工場の中で、このようなことを考えたのはすごいことだと思いませんか。こうすることで、労使の間で信頼の基礎が築かれることになります。

テイラーの考案した「科学的管理法」の成果はそれに留まりません。それは工場に劇的な生産性の向上をもたらしたことです。その後、テイラーは独立して「科学的管理法」を広めるコンサルタントになって活躍し、「科学的管理法」は世界中に広まりました。また、テイラーの考えた管理手法は「テイラーシステム」とも呼ばれるようになりました。

科学的管理法の原理

ここまでざっくりとテイラーの「科学的管理法」の概要を述べてきましたが、もう少しだけ詳しく見ていきましょう。「科学的管理法」は主に以下の5つで成り立っています。

課業管理

これは「科学的管理法」の中核となるものです。「課業(task)」とは、労働者が1日に達成すべき「標準作業量」です。これは次のところで説明しますが、「科学的に測定された1日の仕事量」です。

これが設定されることによって、労働者がどういうレベルで働いているかが客観的に明らかになるわけですから、もっとも重要なポイントです。

作業の標準化

では、1日の達成すべき仕事量を科学的に測定するといってもどうやったのでしょうか。テイラーはこれを「時間研究」という方法で測定しました。

労働者の行う作業を細かく分解し、ムダな動作を取り除き、最も能率が上がるように組み直した上で、その作業時間を測定したのです。

ただし、これは単なる作業時間ではなく、「最善の方法one best way」で行われた時間であり、そのためには用いられる道具も最適なものが設計されました。

そして、「標準作業量」はこの測定結果をもとに、一流の労働者が健康を損なわずに長時間維持できるような速度を基準に設定されました。

ちなみに、ここでいう「一流の」とは、通常の人が辿り着くのが難しいレベルではなく、やる気と適性を持った労働者がきちんと仕事をすれば到達できるものです。なお、そういう人を選び、育成するのは監督者の仕事とされます。

また、ここで出てきた「標準化」ですが、これから経営の世界でものすごく重要なポイントになってきます。これはざっくり言えば、モノややり方のルールをきちんと決めることです。細かなところまできちんと決めることが、能率を上げることにつながります。

当時の工場はあらゆるものが成り行き任せでバラバラだったのですが、テイラーがやったのは、仕事のやり方や道具など様々なものにルールを決めたことなのです。

指図票制度

これは要するに、マニュアルですね。先に述べたような、作業の仕方や時間、使う道具などが標準化され、マニュアル化されるわけです。

なんでもマニュアル化されるのは良くないと思う方もいるかと思いますが、きちんと作業を科学的に分析した上でのマニュアルですから、これを見ることで仕事を覚えて上達するまでの時間が飛躍的に短縮されるわけですね。

例えば、チェーンの飲食店なども細かくマニュアル化されていますが、マニュアルがあることでサービスのレベルを一定以上に保つことができます。こういうことも「標準化」ですね。

差別的出来高給制度

これは課業を達成した労働者には高い賃率、達成できなかった労働者には低い賃率を適用するというもので、その意味で「差別的」な賃金制度です。課業を達成できるかどうかで給料が大きく異なるというのは非常にシビアな感じがしますが、これによって課業の達成を確実にしようということです。

職能的職長制度

これはテイラーの考えた独特な現場管理組織です。通常、組織のリーダーは計画や指示や監督といった様々な役割が求められています。リーダーだから当然とも言えますが、かれら「職長」が行うべき仕事をその性質によって細かく分け、それぞれ専門の職長を置いたわけです。これによって、職長の仕事は専門化され、負担も軽減されました。

しかし、分けたところで、結局全体的な管理を行うリーダーが必要であることに変わりありません。そのことからこれはあまり支持されませんでした。

科学的管理法の事例 ―シャベルすくい作業の「科学」―

テイラーの「科学的管理法」が具体的にどのようなものだったのか、そしてどれほどの実績を上げたのかを見ておきましょう。

とてもわかりやすい事例として、「シャベルすくい作業」を取り上げます。

これはなにかと言うと、ベスレヘム・スチールという製鉄会社での話で、文字通りシャベルで鉱石をすくって貨車に入れる作業です。これを科学的に分析し、最大の実績を上げるにはどのようにしたら良いかを探求したものです。

単純な作業ですが、分析していくと奥深いものがあります。

例えば、一度にすくう量はどれくらいが一番良いか、しかもそれは一日中作業を続けること、そして何日も継続することを考えて設定しなければいけません。これが明らかになれば、シャベルの大きさも決まります。

テイラーはこれを5ポンドから40ポンドまで5ポンド刻みで8パターンで実験しました。その結果、20ポンドが最も多くの作業量になったそうです。

テイラーはまた、労働者を「集団」と考えず、「個」として扱いました。つまり、個々の労働者に対して個別の対応をしたわけです。それぞれにとって最適な道具、教育、1日ごとの結果に対する評価と次の目標の提示などです。このような個別対応をすると事務的なコストは増大しますが、成果はそれをはるかに上回りました。

「科学的管理法」を導入した実績はどうなったでしょうか。簡単に紹介しておきます。

一人当たりの1日の作業量は、16トンから59トンへ増加。3.7倍のアップ。

1日の平均賃金は1.15ドルから1.88ドルへ増加。63%のアップ。

1トン当たりの平均コスト(間接的なコストも含む)は0.072ドルから0.033ドルに減少。56%のコストダウン。

要するに、作業量が増えることで個々の作業員の平均賃金は増加し、その一方でコストも大きく減少したのです。素晴らしい成果ですね。

テイラーのもたらしたもの

「科学的管理法」の意義

先に述べたとおり、テイラーの「科学的管理法」は劇的に工場の生産性を高めました。工場の収益を増やす非常に強力な仕組みだったわけですね。この手法は様々に進化して、現代の生産管理の手法に繋がっています。

テイラーの業績は、短期的には工場の生産性を飛躍的に高めたことですが、それだけでなく、経営の現場に「科学的」な視点を持ち込んだことだと言えるでしょう。経営というものを経営者の経験やカンや、場合によっては気分で行うのではなく、経営という行為の中に科学的な根拠に基づいて上手く管理していくという思想を導入したことは、後世に大きな影響を与えたのだと思います。

結局は経営者の問題

ところが、人間というのは欲深いものです。はじめの頃は良かったのです。

テイラーの管理法によって工場の生産性はものすごく向上して経営者は儲かったのです。しかし、その儲けが労働者に正当に分配されなかったのです。どういうことかと言うと、テイラーの強力な生産性向上のメカニズムだけを取り入れ、その根幹となる哲学を無視してしまったのです。おおざっぱに言えば、経営者の金儲けに利用されてしまったのです。

「ギリギリいっぱい働かされても給料が増えない」、「以前より忙しくなっただけだ」、「科学的管理法反対!」という感じになってしまったのです。その結果、テイラーの「科学的管理法」は労働者から大きな反発を受けます。

とても悲しいことです。テイラーが望んでいたのは、経営者にとっての「限りない繁栄」であり、それに伴う労働者の「最大限の豊かさ」でした。つまり、みんながハッピーになるための「科学的管理法」だったのです。

「なんだかんだ言って、結局は経営者の方が強いんだよな」というつまらない結論にしたくないのですが、こういう問題は産業社会の永遠の課題とも言えます。実際、テイラーはその危険性を繰り返し強調しています。結局は、経営者がどういう哲学で経営するかということでしょう。

それはともかく、この反省から「働く人」に焦点を当てた経営学の研究が進んでいくことになります。

もっと学びたい人のための参考文献

フレデリックW.テイラー「新訳 科学的管理法」ダイヤモンド社、2009年

もともと1911年に出版された本です。その後、なんども翻訳が出されています。2009年に復刻された本書が一番新しいものになります。昔の本なのですが、読んで見ると新鮮な発見があります。

経営学史学会監修(中川誠士編集)「経営学史叢書Ⅰ テイラー」文眞堂、2012年

これは経営学史学会という学会が創立20周年を記念して出した全集の一つです。テイラーにまつわる様々な知見が述べられた貴重な書だと思います。

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