フォーディズムとフォード・システム ー高賃金と低価格の両立で社会を豊かにー

ヘンリー・フォード

米国経済を支え、繁栄の象徴であったアメリカ自動車業界のビッグ3と言えば、GM、フォード、クライスラーですね。この中で最初に大衆車を世に送り出し、社会に広く自動車を広めたのがフォードです。

今回はこのフォードの創始者、ヘンリー・フォードの経営・経営思想について解説します。

ヘンリ・フォード(Henry Ford 1863-1947)は、アメリカのミシガン州の農家に生まれ、16歳から機械工として働きました。

いくつかの会社で働いた後、1891年にはエジソン照明会社のエンジニアになり、そこでエンジンの研究に携わりました。それから紆余曲折を経て、1908年ついに「T型フォード」を発売します。この大衆車向けの「T型フォード」が大ヒットし、アメリカが自動車社会に移行していくきっかけになりました。

ここでは、フォードが提唱した経営思想である「フォーディズム」について、そして彼が構築した生産システムである「フォード・システム」についてかんたんに説明していきます。

フォーディズム

フォーディズムとは、フォード自動車の創業者であるヘンリー・フォードが提唱し、自ら実践した経営思想です。それはどのようなものだったのでしょうか。

その基本的な考え方をかんたんに言うと、「奉仕主義に基づく高賃金・低価格の実現」です。

「奉仕(サービス)」とは社会や一般大衆に対して貢献するという意味です。そして、「高賃金・低価格」というのは、従業員にはより多くの賃金を払い、お客には低価格で提供するということです。つまり、良い製品を社会に低価格で提供し、働く人には高い賃金を払い、それによって企業が社会に奉仕するという考え方です。

通常、従業員に払う賃金を高くするとコストが上がり、低価格を実現することが難しくなると考えますから、一見すると対立するものです。奉仕主義というのは大変素晴らしいことだと思いますが、かなりハードルが高そうです。フォードはこれをどのように実現しようとしたのでしょうか。

なお、フォーディズムは単にフォードの経営思想というだけでなく、もっと広い意味に捉える見方もありますが、ここでは省略します。興味があれば調べてみて下さい。

T型フォード

フォードディズム実現の具体的な姿が「T型フォード」です。

20世紀初め頃のアメリカでは、自動車は富裕層だけが手に入れることができる高級品で、一般の庶民には高嶺の花でした。ですが、一般の人々が自動車に乗れるようになれば、これまでと比べようもないほど生活が便利になり、世の中は大きく発展するとフォードは考え、一般大衆が普通に乗ることができる自動車を開発しようと考えたのです。

1908年、フォードは様々な紆余曲折の末、ついに大衆車「T型フォード」の販売にこぎつけました。そしてこれが大ヒットします。生産台数が増加するにしたがって、フォードは生産工程を進化させ、どんどん価格を低下させていき、本当に自動車を一般大衆が手に入れられるものに変えたのです。ネットで検索すれば、当時の「T型フォード」がどのような車だったか写真で知ることができます。最低限必要なものだけで作られたシンプルな車です。

1918年ごろにはアメリカの自動車の半分はこの「T型フォード」になっていたそうですし、1927年に生産中止になるまでに全世界で1500万台が製造されたといいます。

この「T型フォード」によって、自動車が一気に社会に普及し、アメリカの経済発展の一端を担うことになったわけです。

フォーディズムは「T型フォード」によって実現されることになったわけですが、これを支えた経営が「フォード・システム」と呼ばれるものです。

フォード・システム

自動車が安くなって一般大衆にも買えるようになったということですが、そのためには安くつくれなければなりませんし、たくさん作れないといけません。さらには、品質も安定させなければなりません。これらを成立させたのが、フォード・システムであり、現代の大量生産体制の原型になるものです。

フォード・システムには大まかに言って、二つのポイントがあります。一つは「標準化」、そしてもう一つは「ベルトコンベア・システム」です。この二つについて簡単に説明していきましょう。

標準化

「標準化」はテイラーの「科学的管理法」のところでも書きました。「標準化」は産業社会において極めて重要なコンセプトです。時代的には、テイラーが先ですから、フォードはこの「標準化」を徹底して追求したと言っていいでしょう。

「標準化」というのは簡単に言えば、モノや方法など様々な事柄にルールや基準を設定することです。例えば、部品のサイズや材質などの規格を細かく定めました。このことは大量生産を実現するためにはとても重要なことです。後で説明するベルトコンベアにも関係するのですが、大量生産を効率的に行うためには流れ作業が必要です。この流れ作業は滞りなく作業が「流れていく」ことが大切なのです。その際、「この部品を取り付けたいのにうまく合わない」といったことが発生すると流れが止まってしまうわけです。

昔の手作業の工場では、一つひとつ調整しながら製品を組み上げていったわけですが、そんなことをやっていたら大量生産なんかできません。だから、設計通りに部品が収まるところにきちんと収まるように、細かく定めて作り込んでおく必要があるのです。

この「標準化」をフォードは徹底してやったわけです。精度の高い部品を作るためにそれ専用の機械を製作したりしました。様々な「標準化」の取り組みの積み重ねでムダのない効率的な大量生産の体制を作り上げたのです。

「標準化」は製品そのものにも採用されました。「T型フォード」の場合は、単一製品で、黒一色のみです。いろんな色やオプションがあると、その分流れ作業は複雑になっていきます。作業をシンプルにするほど流れ作業はうまくいきますし、コストも削減できるのです。

ベルトコンベア・システム

これは言い換えれば「移動組み立てライン」とも言います。工場の生産現場を見たことがある人はイメージできると思います。作業員の間をベルトに乗った部品や製品が流れてきて、それぞれの作業員が各自の担当の作業をその流れに合わせてスピーディーに行っていくというものです。

これが「標準化」と組み合わさって強力な大量生産体制となりました。それ以前は、労働者が仕事を取りに行き、作業をして次の工程に回すのですが、「ベルトコンベア・システム」の場合は、仕事が労働者のところにやってくるのです。

この生産の場が移動してくるという発想自体、最初に考えた人はすごいと思いますが、もっとすごいのは「時間強制性」を伴うということです。どういうことかと言うと、作業可能な最も早いスピードで仕事が流れてくるのですから、労働者は自らの勝手な時間調整はできませんし、そのスピードについていけなければ仕事を失います。

このベースには、テイラーの「科学的管理法」における「時間研究・動作研究」があり、「作業の標準化」があるのです。

「標準化」と「ベルトコンベア・システム」を核として、「フォード・システム」は大変な生産効率のアップを実現し、大量の自動車を低コストで生産しました。これによって価格は定価し、フォードの従業員は高い賃金をもらい、自分で車を買うこともできるようになったのです。

フォードの貢献

フォードの経営は何をもたらしたのでしょうか。

社会的な側面として、一般の労働者が自動車に乗れるようになり、豊かな社会への扉を開いたことでしょう。労働者は賃金が上昇することで豊かさを享受できるようになり、自動車に乗って便利な生活をすることができるようになったのです。このことは大変大きな貢献だと思います。

経営的な側面としては、生産を徹底して標準化し、大量生産体制の基礎を作ったことでしょう。これ以降、生産体制はますます進化し、大量生産体制は高度になっていきました。安定した品質のものを安く提供できる仕組みを作り上げたわけです。

フォード・システムの問題点

これは皮肉なことなのですが、フォードの工場で働く人は、賃金が高いにも関わらず辞める人が多かったのです。なぜかというと、「キツイ」のです。細かく細分化された単純な作業を1日中ハイズピードでこなさなくてはなりません。しかもベルトコンベアの「時間強制」があります。労働者は自由度が少なく創意工夫の余地もない毎日の作業が嫌になるわけですね。人間がまるでロボットというか、巨大な機械の一部のような気がしてきます。

いわゆる「人間疎外」というものです。大量生産体制の中で、労働に人間らしさが失われていくということです。賃金をどんどん上げても離職者を引き止めることはできなかったそうです。

「労働者に高い賃金を払ってあげたい」という思いから生まれた「フォード・システム」だったのに、賃金が高くなっても労働者が離れていくという結果になったのは、全く皮肉なことです。

ちなみに、フォードはその後、定期的にモデルチェンジを繰り返すGMに自動車業界トップの座を奪われてしまいます。ある程度自動車が社会に行き渡ると、商品に買い替る魅力がなければいけないということです。どんなに素晴らしい経営でも変化に対応できなければダメになってしまうということでしょう。

いろいろと問題は指摘できますが、企業は社会に貢献し、労働者に高い賃金を払うべきだとした「フォーディズム」の「思い」「志」は高く評価されるべきだと私は思います。キャッシュを溜め込むばかりでイノベーションを起こさない現代の日本企業の経営者は、フォードの経営を見直してみるべきではないかと思います。

もっと詳しく学びたい人のための参考文献

ヘンリー・フォード「藁のハンドル」中央公論新社、2002

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