人間関係論 ー職場の人間関係が良いと業績が上がる?ー

はじめに

テイラーの「科学的管理法」やフォードの「フォード・システム」は、産業社会の発展に大きな貢献を果たしました。作業効率を高めるための科学的な手法に基づいた管理システムによって、工場の生産性はそれまでと比べて飛躍的に向上しました。

しかし、それと同時に別の課題が浮き彫りになってきました。それは労働者の人間的な側面をどのように扱うかということです。つまり、労働者は単に機械のように働いて給料を少しでも多くもらえたら満足するという存在ではないのではないか、という問題意識です。

そのような中、メイヨーやレスリスバーガーらを中心とした研究グループが経営学の新しい分野を拓くことになります。それが「人間関係論」です。

「人間関係論」は、それまで意識されていなかった労働者の心理や社会的な側面に光を当てることで、その後の経営学の発展に大きな可能性を広げることになったのです。今回は、その「人間関係論」についてかんたんに解説していきます。

メイヨーと人間関係論

人間関係論はメイヨーとレスリスバーガーによって誕生し、普及されました。

メイヨー(George Elton Mayo 1880-1949)は「人間関係論の父」と呼ばれています。また、レスリスバーガー(Fritz Jules Roethlisberger 1898-1974)はその弟子で、人間関係論は彼によって展開され、普及されました。

ここでは、メイヨーについて簡単に触れておきます。

メイヨーはオーストラリアで医者の子どもとして生まれ、彼自身も医学生として留学したりしていますが、論理学や哲学を修め、大学の教授になっています。その後、アメリカのペンシルヴァニア大学ウォートン校に移って産業精神衛生の研究行い、1923年から紡績工場で調査を行ないました。それからハーバード大学のビジネススクールに移り、有名なホーソン工場実験を行い、人間関係論を誕生させることになります。この人間関係論は、テイラー的な経営管理の手法に大きな疑問を投げかけることになったのです。

ミュール実験

メイヨーは有名なホーソン工場実験の前に「ミュール実験」というのを行なっています。これは1923年から24年にかけて行われたのですが、ここの紡績工場の生産性が低く離職率が高い(辞める人が非常に多い)から改善を依頼されたものでした。

ここの作業員は切れた糸をつなぐといった単純作業を繰り返すのですが、メイヨーはこの作業員が単調な仕事による疲労や孤独感にあると考え、1日4回10分の休憩時間を設けました。この結果、生産性は改善し、辞める人(離職率)も平均レベルになりました。

もともとこの実験は作業環境が生産性や離職率に与える影響を調べるもので、テイラー的な観点によるものでした。その意味では、表面的に見ると休憩という作業環境が良い結果をもたらしたと言えます。

「しかし、それだけだろうか?」というのがメイヨーの疑問でした。そしてメイヨーは、経営者が労働者たちに「休憩の取り方は自分たちで相談して決めてよい」としたことが、労働者たちを連帯感のある社会集団に変えたからではないか、と考えました。さらには、研究者などが労働者からの相談にのって良く話を聞いていたからではないか、といったことに目をつけることになったのです。つまりテイラー的なもの以外の「何か」が生産性や離職率に影響を与えているのではないかと考えたのです。

人間関係論a

ホーソン工場実験 The Hawthorne Experiments

ハーバードビジネススクールに招かれたメイヨーは、1924年から1933年にかけて行われ、後にものすごく有名になる「ホーソン工場実験」に携わります。ホーソン工場というのは、電話機製造の会社でウエスタン・エレクトリック社のホーソン工場のことです。

先立って行われていた照明実験

ホーソン工場では、彼らの前に「照明実験」というものが行われていました。1924年から1927年にかけて行われたものです。それはメイヨー達によるものではありませんでしたが、結果はとても興味深いもので、メイヨー達の実験に影響を与えるものになりました。

これは照明と作業効率の関係を調査するもので、照明を変えて作業するテストグループと、照明を一定にして作業するコントロールグループに分け、測定しました。結果はどうだったかというと、照明を明るくしていくと作業効率が上がっていったのですが、今度は暗くしても効率はほとんど落ちなかったのです。しかも、照明が一定のコントロールグループも効率は上がり続けたのです。

「照明(作業環境)と効率は関係ないじゃん!」ってことになるわけです。まあ、全く関係ないってことはなくて、「どうやら効率に影響を与えるのは物理的な作業環境だけではないな」ということになり、ここから本格的なホーソン工場実験に発展していくのです。

では、ホーソン実験で有名な3つの調査を見て行きます。

リレー組み立て試験室 1927-1932

これはリレー(継電器)を組み立てる作業について、6名の女子工員を選び、彼女たちを個室に移して作業条件と効率について測定した実験です。

賃金、休憩時間、部屋の温度など様々な条件を変えながら生産性を測ったのですが、これらの条件を良くしていくと生産性も上がりました。ここまではいいのですが、これらの条件をもとに戻しても生産性が落ちることなく高いままだったのです。先の照明実験と同じで、どう解釈していいか実験者たちは困ってしまいます。そこで次の実験です。

面接調査 1928-1930

これは文字通り一人ひとり面接して話を聞くものですが、対象はどんどん拡大し、最終的には2万人を超える従業員に面接をしました。よくそんなにやれたな、と感心します。

最初のほうは実験者がマニュアルに沿って行っていましたが、次第に監督者が加わり、面接方法も自由な会話形式にと変わっていきました。結果的に膨大な雑談記録になったわけですが、ここで意外なことが起きます。

何かと言うと、面接をやっている間に生産性が上がっていったのです。つまり、

この面接それ自体が生産性を上げることにつながったのです。

従業員は自由な雰囲気の中で不満を言っているうちに、それが根拠のあることかどうかを自ら解釈するようになり、監督者は従業員の話から部下の状況を把握し、問題に対処することになりました

愚痴を聞いてもらうだけでスッキリすることってありますしね。それはともかくとして、ある結論が導き出されました。つまり、人間は「感情」というものに大きく左右されるということです。

バンク配線作業監察室 1931-1932

感情や人間関係が重要であることはわかりましたが、もう少し詳しく調査する必要があって、次の実験に移ります。バンク(差込式電話交換台)の配線作業を行う14名の男性を一つの個室に移して、彼らの人間関係を調べたのです。実験の記録者が常に部屋の片隅にいて、彼らの様子を克明に記録しました。

そこから明らかになったのは、この14人の中に「非公式組織」というものが存在していて、それがその集団にとって重要な役割を果たしているということでした。

「非公式組織」というのは、文字通り「公式」に定められたものではなく、自然発生的に出来上がる仲間関係です。つまり公式組織と非公式な組織が共存していて、しかも非公式な組織(これを組織と呼んでよいかは別としてです)が公式な組織に影響を与えているということです。

その影響というのは、次のような「集団規範」です。言い換えれば、仲間内の「暗黙のルール」です。

  • 仕事に精を出しすぎてはいけない
  • 仕事を怠けすぎてはいけない
  • 上司に告げ口をしてはいけない
  • 偉そうにしてはいけない

あらためて「非公式組織」と言われなくても、私たちの日常の中でも経験していることとして理解できますよね。良くも悪くもこうしたことは社会の中に存在します。この暗黙のルールに反する行動を取ると仲間はずれにされてしまうわけです。逆に言えば、仲間はずれにされるのが嫌だから、こういった「非公式」のルールに従っているのです。

ここで挙げたルールは決して良いものとは思えませんが、「非公式組織」の存在を認識し、その働きを明らかにしたということがここでのポイントです。

人間関係論b

人間関係論の意義

このホーソン工場実験から人間関係論というものが生まれたのですが、その意義はおおざっぱに言って次の二つあると考えられます。

非公式組織の存在を見つけ、その働きを明らかにした

通常、組織の中の個人は、上司と部下、役職と役割といった公式の関係で動いているというか、「動くべきだ」とされていますが、実際には「非公式組織」と呼ばれるような自然発生的な関係がその中に共存していて、その関係に強く影響を受けています。この現実的な視点がとても貴重だと思うのです。

例えば、人によっては上司の命令よりも仲間関係を維持する方が重要であったりします。表向きは従っているようでも、実はそうでなかったりするのです。いわゆる仲間の間の「空気を読む」なんていうのもそれにあたるでしょう。仲間内の「正解」を知らず知らずのうちに探してしまうのです。

科学的管理法を「能率の論理」と言うならば、人間関係論のそれは「感情の論理」と言えるでしょう。

人間関係論が投げかけたものは、物理的な作業環境や金銭的な刺激だけでは人間をやる気にさせるのには限界があり、もっと人間の社会的な側面や感情に目を向けるべきだというメッセージだったと言えるでしょう。

実際、人間関係論の誕生をきっかけに、社会心理学や行動科学などの新しい分野が次々と生まれました。

「社会人」という新しい「人間観」を提示した

「人間観」というのは、経営学において人間をどのような存在と考えるかという前提です。難しい哲学的な話のように感じるかもしれませんが、そんなことはありません。

例えば、「人間はお金が第一で、損するか得するかで何事も判断する」とするならば、人間をやる気にさせるには給料を上げればいいということになります。ものすごく極端ではありますが、これが「経済人」と言われる人間観です。つまり、人間は経済的な合理性に基づいて行動するという前提です。テイラーの科学的管理法もある程度、こういう前提に立っているところがあります。

また、「人間は組織の中で命令された通りに動き、全体の中で自分の役割を淡々と果たす存在」だと考えるならば、組織の設計をきちんとして的確な命令を出し、規則を厳格に守らせれば、組織はうまくいくということになります。こういうのを「機械人」ということができます。同じく、テイラーの手法にはこういう感じが幾分あります。

確かに、人間には「経済人」的な、「機械人」的な面があります。しかし、それだけかというと違うのではないでしょうか。

人間関係論が示したのは、これらとは異なる「社会人」という人間観です。いわゆる「就職して働くようになった立派な社会人」という使い方の「社会人」ではありません。人間は「集団に所属することを求め、友情や安定感を望む存在」という人間観です。非公式組織の暗黙のルールに従うような、ある意味では非合理的な行動を取るのは「社会人」的な側面です。

私はあえて「側面」という言い方をしています。人間が「経済人」から「社会人」に変わったのではなく、人間が持つ別の側面をメイヨーたちが発見したと考えています。

「社会人」を前提にすると、人が仕事にやる気を出して働くには、職場の人間関係が極めて重要なことだということになります。人間は感情を持った存在で、「理屈」や、「損得勘定」だけで動くのではない、ということを理解しないと、管理がうまくいかないということです。

人間関係論への批判

以上述べてきたように、人間関係論は経営学の分野に新しい世界を拓いたわけですが、現代では様々な批判もあります。

例えば、先のリレー組み立て実験では、もともとやる気があって仲の良いメンバーが揃っていた上に、周りの環境も彼女たちの生産性向上に良い影響を与えていたからだという批判もあります。

また、人間関係が良好だからといって生産性が上がるとは限らない、という批判もあります。つまり、そんな単純なものではないでしょう、ということです。

例えば、先にすこしだけ科学的管理法と比較しましたが、科学的管理法の時代と人間関係論の時代は少しずれていて、人間関係論の生まれた時代の方がいくらか豊かになっています。社会状況が変わると何がやる気につながるかは変わってきます。現代のようになんでも揃っている豊かな時代には、通用しない部分も出てきます。「社会人」的な側面は普遍的であるとしても、それは人間の一面に過ぎないということです。

だから人間関係論はダメだ、ということではありません。不十分なところを明らかにすることで次の進歩があるのですから、大事な、そして大きな「一歩」であることに変わりありません。

もっと詳しく学びたい人のために

経営哲学学会監修(吉原正彦編著)「経営学史学会叢書Ⅲ メイヨー=レスリスバーガー」文眞堂、2013年

経営学史学会という学会が創立20周年を記念して出版した全集のうちの一冊で、人間関係論について、そしてメイヨーとレスリスバーガーについて詳しく書かれています。

エルトン・メイヨー「産業文明における人間問題(新訳版)」日本能率協会、1967年

エルトン・メイヨー「アメリカ文明と労働」大阪商科大学経済研究会、1951年

これらはメイヨーの著書ですが、いまや絶版になっていて新品は手に入りません。中古でも高額になっていますので、図書館を探すのがいいと思います。

補足:ホーソン効果 The Hawthorne effect

ホーソン工場実験から生まれた言葉で「ホーソン効果」というものがあります。

人間は注目されていたり、期待されていたりすると、「もっと頑張ろう」、「期待に応えよう」と努力します。いつも通りにやってほしい実験の時には、望ましいことではありませんね。ホーソン実験の時には、注目している実験者の目を気にして生産性を上げようとすることが少なからずあったわけです。ですから、こういう効果が生じないように、実験の時にはそれとわからないようにするといった工夫が必要になります。

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