マグレガーのX理論・Y理論 ー人は仕事が嫌いなのか?ー

はじめに

今回はアメリカの心理学者・経営学者、マグレガー(Douglas Murray McGregor 1906-0964)という人が提唱した「X理論・Y理論」について解説します。

マグレガーはハーバード大学で心理学博士を取った後、マサチューセッツ工科大学などで教授を務めた超優秀な人です。彼はマズローの「欲求階層説」に影響を受け、自らの理論「X理論・Y理論」というものを考えました。これも経営学の教科書などで頻繁に登場するものです。

彼の主著「企業の人間的側面」という本が1960年に出版されていて、その日本語訳が1970年に出版されていますが、その中でマグレガーは、企業経営の中で人間というものが誤って捉えられていることを論じ、良い経営のためには人間への洞察が必要であることを主張しています。

そこで出てきたのが「X理論・Y理論」ですが、それは人間というものをどのような存在と捉えるか、すなわち「人間観」に関するものです。前提としての人間の捉え方次第で、経営のあり方、もっと具体的には労働者に対する管理の手法は変わってきます。

X理論というのが伝統的な捉え方で、企業は相変わらずそれを前提にしているけれども、それはちょっと違ってきているんじゃないか、とマグレガー異議を唱えています。そしてY理論という現代的な捉え方をすると経営はもっとよくなるんじゃないか、というのが彼の主張です。

それではもう少し詳しく見ていきましょう。

X理論(theory X)の人間観

マグレガーは、企業社会において次のような人間観が暗黙のうち前提となっているとしています。それは、

  • 人間は生まれつき仕事が嫌いで、できることならしたくない。
  • だから、強制されたり統制されたり、脅されたりしないと会社の目的のために十分な力を出さない。
  • 人間は命令されることを好み、責任を回避したがる。あまり野心を持たず、何より安全を望むものである。

というものです。

「いや、自分はそんなことないよ」という方もいるかと思いますが、それはとりあえず置いておいておきましょう。マグレガーは、経営者がそういう風に労働者のことを考えていて、こうした考えがアメリカの企業に深刻な影響を与えているとしています。

このような人間観からどのような管理の仕方が出来上がるかというと、「命令と統制」の管理になるわけです。つまり、企業側が決めた目標を労働者に指示をしてやらせ、その結果をチェックして、できていれば褒め、ダメだったら叱る」というやり方です。「アメとムチ」というやつです。

基本的に、人間を信用していないわけですね。私は人間にはそういう面が確かにあると思います。ですが、「人間ってそんなにもともとやる気がないわけじゃないでしょう」と思いますよね。むしろ、そういう風に見られているから「そうなる」ということもあるのではないでしょうか。

マグレガーはX理論で人間の行動を説明できるところもあるけど、これに合わないところがたくさんあるとしています。そして、X理論のやり方では人間の力を十分に発揮させられないとしています。

Y理論(theory Y)の人間観

では、Y理論はどうでしょうか。次のように言っています。

  • 仕事で心身を使うのは当たり前のことで、遊びや休憩と変わらない。
  • 統制や脅しがなくても、自分が進んで決めた目標には、自らムチ打って働くものだ。
  • 献身的に組織に尽くすかどうかは、それで得られる報酬次第である。
  • 条件次第で自ら責任を引き受け、自ら責任をとろうとする。
  • 企業の問題を解決する高度の能力はたいていの人に備わっていて、一部の人だけに備わっているわけではない。
  • 現代の企業では日頃、従業員の知的能力の一部しか生かされていない。

X理論と比較して、グッと現実的な人間の姿になっています。

ただし、どちらか一方ではなく、人間にはX理論的な面もあるけれど、Y理論的な面もあると考えるべきでしょう。

ここで重要なポイントは、Y理論は人間が成長したり発展していくことを前提にしていることです。

先に述べたように、X理論的に扱うとそうなってしまうし、人間はそこで止まってしまうでしょう。しかし、Y理論的に捉えた場合、人間は自らやる気になり、自分の能力を伸ばそうと努力するようになる可能性があるわけです。

マグレガーは、人間がX理論的だからダメなのではなく、経営者がY理論的な人間の姿を引き出す能力がないからだと述べ、経営者の心の奥深くに染み込んだ人間観を変えるべきだとしています。経営者にはとても耳の痛い言葉ですね。

統合と自己統制

Y理論によるモチベーション

では、Y理論をどのように経営に生かしていけば良いのでしょうか。経営の中で人に関わる部分ではすべてに関係していくことですが、ここではモチベーションに絞って進めていきます。

マズローの「欲求階層説」に絡めて考えると、X理論は低次の欲求を多く持った人で、Y理論は高次の欲求を多く持った人ということができます。

マズローを少し復習すると、人間は低次の欲求が満たされると、より高次の欲求の満足を求め、いったん満たされた欲求はモチベーションを高めるものにはならない、というものでした。

そう考えると、X理論的なやり方は、低次の欲求が満たされていない人には効果がありますが、すでに低次の欲求が満たされている人には効果がないということになります。

実際、1960年前後の時代において、企業で普通に働いている人たちは生理的欲求、安全欲求、所属欲求などはほぼ満たされていると考えて良いわけで、そうなるとX理論的なやり方は「ズレて」いるということになります。

もっと、承認欲求や自己実現欲求を満たせるような管理の方法、モチベーションの高め方を考えなければいけないということになります。

統合と自己統制

Y理論を前提としたモチベーションとは具体的にどのようなものでしょうか。

マグレガーはそれを「統合と自己統制」による管理と呼んでいます。

統合の原則として、マグレガーは「個人が企業の繁栄に努力することが、各自の目標達成につながるような環境を作ること」だとしています。言い換えれば、会社の目標とそこで働く人々の個々人の目標を合致させることです。

通常は、会社が決めた目標を個々人に割り振り、達成させようとします。確かにそれを個々人が達成すれば、会社も繁栄し、個人も評価され、豊かになります。ですが、それは相変わらず根底にX理論があって、経営者の考えた通りに従業員が従えばよいという発想であると批判しています。

「統合」はどちらか一方が押し付けるのでなく、双方が話し合って調整し、納得のいく目標を設定することです。そのように決めた目標には、従業員は自ら責任を持って臨み、力を発揮することになると考えるのです。

そして「自己統制」は、経営者側が目標の達成状況を監視するのではなく、個々人が自らの働きをチェックするということです。「目標による管理」と言ってもいいでしょう。個人が自分で目標を決め、自分で自分の働きを管理することで、Y理論的な人格が育っていくことになるわけです。

おわりに

マグレガーの主張は、経営というものをとても民主的なものに変えていくでしょう。その根底に人間に対する強い期待を感じることができます。

つまり、人間は単に命令されて動く存在ではなく、自分で自分を高めていくことができるし、そうなれば経営はもっともっと良くなるはずだし、産業社会全体が良くなっていくに違いないと考えていたのでしょう。

ただし、Y理論はX理論よりも難しいのです。Y理論で経営が成り立つには、経営者も個々人も変わらなければなりません。そのためには時間と手間がかかりますし、経営者の側には辛抱強く成長を待つ忍耐力や寛容さが必要だと思います。手っ取り早く結果を出したいという経営者には無理でしょう。

実際、マグレガーは「統合」が常に可能とは考えていませんし、「完全な統合」は現実的には無理だと言っています。だから、程度問題であって、徐々に理想的な形に近づけていくという姿勢が求められるのです。

「時間をかけて辛抱強く」が大事ですね。「目標による管理」の手法だけ実行して、Y理論を理解しないせっかちな経営者が多いことをマグレガーは嘆いています。テイラーも同じようなことを言っていたのを思い出しました。

ただし、管理者が計画を決めて労働者はそれを忠実に実行するというテイラーの考え方と、マグレガーの考え方は大きく異なります。50年位経っていますから、当然と言えば当然です。

もっと詳しく学びたい人のための参考文献

ダグラス・マグレガー「企業の人間的側面 ―統合と自己統制による経営―」産能大学出版部、1970年

かなり古いですが、まだ新品が手に入ります。読みやすい内容です。近年「ブラック企業」などと呼ばれるような企業が実際に多くあります。相変わらずという感じです。時代が移り変わり経営の手法がどんどん進化している割には、労働者を大事にしない経営者が多いようです。結局は経営者次第ということなのでしょうが、マグレガーのY理論は理想的過ぎるのでしょうか。この本を読んで考えてみるのも良いと思います。

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