アージリスの「未成熟・成熟理論」 ー従業員の成長を妨げない組織へー

アージリス 未成熟・成熟理論

アージリスについて

アージリス(Chris Argyris 1923-2013)はマグレガーなどと同様に、心理学を学び、経営学の分野で重要な業績を残した人で、行動科学的組織論を代表する一人です。フランス、ドイツ、イギリス、アメリカなど各国の大学で教えるとともに、政府や企業のコンサルタントとして活躍しました。

パーソナリティーについて

アージリスはパーソナリティーという観点から、個人と組織の対立や統合の問題を探求してきました。

この「パーソナリティー」という心理学的概念がやっかいで、心理学者の間でも定義が様々あるようです。私はそもそも心理学は素人なので、深い理解はできていませんので、あまり深入りしないように、そのあたりは避けながら進めていきます。

とはいえ、全く説明しないというわけにいきません。そこで、かんたんに言うと、「パーソナリティー」を、「個々の人間の人格の全体」くらいの感じで捉えておきたいと思います。

パーソナリティーは様々な能力を持ち、意識的・無意識的な種々の欲求を持った人間の人格を包括的にとらえたもので、外部の環境(組織や文化)の中で影響を受けながら形成されていくものです。「自我」と言ったりもします。

そうすると人間の物的な肉体以外のすべて、と言っても良さそうですが、能力的なことは肉体を伴うものですし、人格と肉体を切り離して考えることもできません。ですから、「人間そのもの」とか「個人」と考えても良いかもしれません。

このあたりをきちんと理解したい方は、別の専門的なものを読んでみてください。

というわけで、ここではパーソナリティーというものを、ざっくりと「個人」に置き換えて説明していきます。

未成熟・成熟理論

アージリスは、個人の内面がバランスのとれた状態であることを「適応 adjusted」と呼び、個人と外部の環境がバランスのとれた状態であることを「順応 adapted」と呼んでいます。

そして、アージリスは人間が様々な環境の中で、自身を「適応」「順応」させながら成長していくものと考えたのです。

例えば、人間は幼い頃は、自分をうまくコントロールできません。そして、外の環境、他人や集団ともうまく折り合いをつけることができません。だから、他人と対立して喧嘩をしたり、自分の気持ちを抑えることができなかったりします。

ですが、様々な経験を積む中で、次第にバランスをとることができるようになっていきます。それが適応であり、順応です。人間はそうしたことを繰り返しながら、成長していくというわけです。これは子どもだけに言えるのではなく、大人になってからも同じです。

アージリスは、個人がそれぞれの環境において適応し、順応した状態のことを「統合integration」と呼んでいます。つまり、「統合」状態が個人の理想的な状態です。そして「統合」状態のもとで目的達成することで「自己実現」が達成されると考えました。

アージリスは、このような成長の過程を「未成熟・成熟理論」(マチュリティ理論)として説明しています。それをかんたんに表にするとこんな感じです。

未成熟・成熟理論

つまり、人間は成長するにしたがって、

  • 受け身の態度から能動的になっていき、
  • 依存的な状態から自立を目指そうとし、
  • 単純な方法でしか行動できなかったのが多様な行動を選択できるようになり、
  • 浅い関心からより深い興味を持つようになり、
  • 目先の短期的な視点から長期的な視点を持つようになり、
  • 従属的な地位に甘んじるのでなく同等か上位の立場になりたいと考えるようになり、
  • 自己意識が欠如した状態から自己を意識して自らをコントロールしたいと思うようになり、

といった具合に、次第に成長していくということです。

これが人間の基本的な動向であり、そのように変化していく欲求を持つのが自然なことです。

人間は成長します。企業の中で考えれば、従業員は成長しますし、そのような欲求を持っているということです。

「個人」の成長を妨げる「組織」

一方、人間はそのような欲求を本能として持っていますから、それを妨げられると攻撃や拒否や抑圧といった防衛をします。

これは通常の社会生活で見られますし、当然ながら企業組織の中でも見られます。とりわけ、企業の組織というものが個人の成長を妨げるような方向に作用することに、アージリスは着目していました。

アージリスは、特に伝統的な組織論における組織原則にそれが見られるとして、4つに集約して述べています。その4つとは次のようなものです。

  • 専門化の原則
  • 命令連鎖の原則
  • 指揮統一の原則
  • 管理範囲の原則

組織原則というのは、簡単に言えば、組織の効率性を高めたり、秩序を維持したりするために考えられたルールのようなものです。

それらをおおまかに述べていきます。

専門化の原則」というのは仕事をその性質によって分類し、専門化することです。これによって人間はそれぞれの能力を十分に使って組織に貢献することが期待されます。しかし、それは個々の人間の能力の一部分しか用いられないということでもあります。

命令連鎖の原則」は、命令が組織のトップから下の階層に連鎖して正確に伝えられ、それによって組織が一個のまとまりとして運営されることになるというものです。しかし、そうすると上位の管理者に対して個人が従属的・受動的になることを要求することになりますし、また個人のそのような態度を促進することにもなります。

指揮統一の原則」は、命令が1人の上司のみから出されることで、組織の秩序を保とうとするものです。部下が複数の上司から命令を受けると混乱してしまいます。ですが、そのような状態は個人を自発的な目的設定のできない状態にしてしまいます。

管理範囲の原則」は、1人の人間が管理できる範囲は限られているので、それらを適度に制限するべきだとするものです。リーダーシップにそのような限界があるのはもちろんですが、個人がコントロールできる範囲が狭められてしまうことにつながります。

要するに、組織原則というものが個人を「未成熟」な状態のままにしてしまうというわけです。もっと幅広い能力を身につけて働きがいのある仕事をしたいと思ったり、自分の頭で考えて目的を決め、自分の責任において仕事を遂行したいと思ったりすることが叶えられないと、人間はやる気が起きなくなってしまいます。

個人は組織の中で自己実現を果たすことが困難になり、欲求不満に陥り、葛藤を感じ、失望感に苛まれることになります。

組織に対する個人の防衛

このような状態に置かれた時、人間は以下のような行動をとるとしています。先に述べたように防衛するわけです。

  • 組織を去る
  • 出世してトップになるために頑張る
  • 自己を守り、防衛本能から順応する
  • 目標を下げたり、無力感・無関心になって順応する(その結果、物的報酬に価値を置くようになる)

頑張って社長になれるのはほんの一部ですから、現実的に考えると、個人は組織を去るか、順応するか、価値観を変えるしかない、ということになります。また、そう簡単には会社を辞められないでしょうから、多くの人は組織にとどまります

そうすると、個人はそういう状況に順応して命令のままに動く悪い意味での「組織人」になったり、仲間うちで非公式組織を形成してそれに依存するようになったり、無気力・無関心になってただ時間をやり過ごすようになったりするわけです。

そして経営者はそれを見て、「やる気のない奴らだ」と思って、さらに組織の強制力を強めたりします。

悪循環です。

とても暗い話になってきましたが、こんな状態では個人のモチベーションを高めることは到底できませんね。

かといって、長い期間をかけて形成されてきた組織というものを、そんなに大胆に改革できるものではありません。組織原則がおかしいといってもそれはそれで意味があるわけです。

ですから、組織が個人に与える良くない作用を認識した上で、組織を修正する必要があります。

個人の成長を妨げない組織へ

アージリスは、そのためには組織が変わらなければいけないし、組織だけでなく個人の側も変わらなければならないとしています。そして、その手立てとして次のようなことを提唱しています。

職務拡大

これは仕事の単調感をやわらげるために個々のメンバーの仕事の幅を広げるということです。水平的拡大といったりもします。組織の分業によって切り取られた一部の仕事でなく、1人でまとまりのある仕事をできたほうがやりがいも生まれます。

参加型リーダーシップ

メンバーが一方的に命令を受けたり、計画に従うのではなく、すべてのメンバーが議論に参加して、自分たちでいろんなことを決めていく仕組みに変えるということです。

感受性訓練

対人的な共感性を高めて自己、他人、集団への理解を深めるためのトレーニングをするということです。人間が成長していくには、対人的な能力を高める必要があり、それによって組織の中で自身を生かすこともできるようになるからです。

おわりに

このように見てくると、経営者というのは非常に重要な役割を持っていると言えます。企業の業績だけでなく、実はそこで働く人々の人間性にも、もっと言えば人生をも左右することになるからです。

経営者は従業員が成長するということを知らなければいけませんし、それに適した組織の仕組みや仕事のあり方を提示していかなければいけません。個々の従業員のため、ということもありますが、そうしなければ結局、組織の継続的な発展は困難になるからです。

個人と組織の間の葛藤はそう簡単に解消できるものではなく、組織の永遠のテーマと言えるでしょう。だからこそ、常に考え続けていきたいテーマです。

もっと詳しく学びたい人のための参考文献

クリス・アージリス「新しい管理社会の探求 組織における人間疎外の克服」産業能率短期大学出版部、1969

クリス・アージリス「組織とパーソナリティ システムと個人との葛藤」日本能率協会、1970

クリス・アージリス「対人能力と組織の効率 個人の欲求と組織目標の統合」産業能率短期大学出版部、1977

以上の3冊は日本語で出版されたアージリスの著作ですが、もう古本でしか手に入りません。残念なことです。

クリス・アージリス「組織の罠」文眞堂、2016

これは最近日本語になったアージリスの遺作で、今でも手に入ります。

補足

混合モデルについて

アージリスは個人の成長と組織の効率性を両立するものとして、「混合モデル」というものを提唱していますが、なんだかわかりにくいものなので、ここでは省略しました。関心のある方は調べてみてください。

組織原則について

それから、組織原則についてはアージリスの述べた4つについてだけ書きました。組織の構造や運営においてはそれなりに意味がありますし、現実の組織にも根付いているものです。いずれ別の記事でまとめておきたいと思います。

組織学習

アージリスは組織学習の研究にも力を入れていて、「シングルループ学習」、「ダブルループ学習」などで知られています。これも関心のある方は調べてみてください。

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