クラスターとイノベーション ー近くに集まった方が強い?ー

はじめに

「クラスター」「産業クラスター」という言葉は、ポーター(Michael E. Porter)によって広められ、多くのところで用いられるようになっています。ポーターと言えば、このサイトの中でも競争戦略のところで取り上げましたね。多くの業績を残している世界的に知られる超有名な経営学者です。

「クラスター」の内容はこれから述べていきますが、ここでは「イノベーション」、とりわけ「イノベーションによる地域経済の活性化」との関連で取り上げていきます。

クラスターとは何か

まず、「クラスター(cluster)」についてです。これは「産業クラスター(industrial cluster あるいはindustrial district or regional cluster)」と言われたりもしますが、ここでは「クラスター」で統一しておきます。

クラスターというのは、日本語にすると、「(果物などの)房、塊」、とか「(同種の生物などの)集団」といった意味です。イメージとしては、ぶどうの房のように複数のものがかたまりを形作っている感じ、と言えばわかりやすいでしょうか。

ポーターはこれを次のように定義しています。

「クラスターとは、ある特定の分野に属し、相互に関連した企業と機関からなる地理的に近接した集団である。これらの企業と機関は、共通性と補完性によって結ばれている。」 (「競争戦略論Ⅱ」、p.70)

「企業」については、製品・サービスを生み出し、販売する企業から、部品や原材料を扱う企業や、金融機関、そして関連する産業の企業まであらゆる企業を含みます。

そして、ここでいう「機関」というのは、大学や研究機関、職業訓練機関、規格制定団体や政府機関、産業団体など様々な組織を含みます。

これら企業や機関がある地域に集中している状態をクラスターというわけですが、ただ集中しているだけではなく、ある産業を軸にしてそれらが集まり、互いに関連し合っている状態です。

「関連」ということで、「共通性と補完性」と言っています。つまり、それらの組織が互いに共通していたり、互いに補い合っていたりするということです。

ただ、このクラスターの境界つまり地理的な範囲について「地理的に近接」としていますが、一都市の小さなものから国全体あるいは近接数カ国のネットワークにおよぶものもあるとしています。少々曖昧ですね。ここではあまり深入りしないでおきますが、あえて解釈すると、関連性がある組織が存在するところまでと考えておきます。

まだ、わかったような、わからないようなぼんやりした感じですよね。そこで、ポーターが挙げている具体例を見ておきましょう。

クラスターの具体例

クラスターの具体例としてよく取り上げられるのが、カリフォルニアのワインを中心としたクラスターです。

カリフォルニアはワインの生産地として大変有名ですが、そのワイン・クラスターでは、ワイン製造とブドウ栽培を軸にして、様々な支援産業が広い範囲で補完しているとしています。

図に表すと以下のようになります。「競争戦略論Ⅱ」のものを少しだけ簡略にしたものです。

例えば、ブドウ栽培業者は肥料や農薬などを扱う業者、収穫設備を扱う業者など農業関連のつながりがあります。そしてカリフォルニアの農業クラスターとも密接につながっています。

ワイン製造業者はビンやコルクやラベルなどの包装に関わる業者、製造機器を扱う業者、ワイン専門誌を扱う業者などとつながりがあります。そして、観光クラスターや食品クラスターとも関連を持っています。ちなみにワインやブドウ園は観光資源としても大変重要な要素です。

さらに、両方に関連するものとして、カリフォルニア州政府、教育・研究機関などが関わっています。

つまり、これら様々な企業・機関、そして別のクラスターなどがワインを中心として、まとまりのある全体を形成しているのをクラスターと呼んでいるのです。

なぜ「クラスター」なのか?

このように見てくると、確かにそういう「まとまり」が形成されていると考えられます。でも、それっていわゆる「産業集積」と言われてきたものとどう違うのだろうという疑問が出てきます。わざわざ「クラスター」と呼んで注目をするのはなぜか、ということです。

ポーターは、クラスターという視点から見た方が、競争の本質や、競争優位の源泉を考える場合に都合がいいからだと述べています。従来の視点、つまり、企業や、産業といったグループや、製造やサービスといった部門別で見るより、何によって競争力が生まれているかを捉えやすいということです。

これは「立地」というものの持つ意味が変わってきたということにあるだろうと思います。地理的に集中することの重要性が再認識されてきたということでしょう。

以前は、一つあるいは複数の産業に関する企業がある地域に集中していることは、立地の面からメリットがありました。原材料の調達が楽だとか、技術者や熟練工がたくさんいるとか、輸送面で有利とか、大きな消費地が近いとか、そういったことです。

ですが、グローバル化の中でそういったことはあまり意味をなさなくなりました。つまり、安くて良質なものは全世界から入手できるし、全世界に運ぶこともできます。作る場所も低コストで効率的なところを選べます。また、ネットであらゆる情報が手に入り、データのやり取りも簡単に行えるようになりました。

しかしその一方で、国や地域の競争力ということから考えた時、実はクラスターという概念が非常に重要であることをポーターは指摘したのです。つまり、ある分野の成功した条件を検討した時、そこにはクラスターが形成されているということです。

ある特定分野の関連企業、専門性の高い供給業者、関連業界の企業、関連機関などが地理的に集中し、競争しながらも協力しあっている状態が、その分野の成功を生み出していたということです。

グローバル化が進み、グローバル化の弊害が指摘される中で、このような地域の持つ優位性が指摘されたことに意味があると思います。

クラスターと生産性

さて、それで、なぜクラスターが成功の生み出すことになっているかということですが、思い切りかんたんに言えば、「集まっていた方が生産性は高い」ということです。

(ポーターはここで例の「ダイヤモンド型の図」を出して説明していますが、これも長くなりすぎる感じがしますので省力します。いずれ追加するかもしれませんが。)

クラスターが競争力を生み出す影響

ポーターはクラスターが3つの形で競争に影響を与えるとしています。それは以下ようなものです。(「競争戦略論Ⅱ」p.86)

  • クラスターを形成する企業や産業の生産性を向上させる。
  • その企業や産業がイノベーションを進める能力を強化し、それによって生産性の成長を支える。
  • イノベーションを支えクラスターを拡大するような新規事業の形成を刺激する。

クラスターを形成することで生産性が上がり、イノベーションが起きやすくなり、新規事業も生まれやすくなるというわけです。

コミュニケーションとネットワーク

そして興味深い点は、これら3つの影響は、人間同士の顔を突き合わせたコミュニケーションやネットワークの相互作用に依存しているということです。ある産業を中心としたいろんな組織の人々が、近場にいることでコミュニケーションが密接になり、相互作用する中で生産性が上がったり新しいアイデアが生まれたりするのです。グローバル化の一方で、実は顔の見えるリアルな関係が重要だというのが面白いところです。

クラスターとイノベーション

ポーターは、クラスターがもたらすメリットは生産性もさることながら、イノベーションの方が重要かもしれないと言っています。というのも、クラスターに属している企業は、孤立した企業と比較して次のような点が有利となるからです。(「競争戦略論Ⅱ」p.97-100)

イノベーションに有利な点

顧客ニーズを明快かつ迅速に、そして容易に把握できる。

クラスターには多くの関連企業や組織、そして顧客が存在しています。そしてそれらは高いレベルで競争をしています。そのため、クラスターに属する企業は顧客のニーズをすばやく効果的に引き出せるというわけです。

新しい可能性に気づきやすくなる。

クラスターに属していると、発展中の技術や新しいコンセプトなどを常に学ぶことができるため、技術やオペレーションや製品提供といった様々な面における新しい可能性を見つけやすくなります。また、近場にそれらの組織が集まっているので、現場訪問も容易に行うこともできるのです。

新しい動きを迅速に実行できる。

新たなチャンスを見つけ出しても大事なことはそれをビジネスとして形にすることです。それを可能にする様々な資源がクラスター内の組織に存在しているため、互いに共同しながらスピーディーに進めていくことができるのです。

新しい製品やサービスの実験を低コストで行うことができる。

遠く離れていると新しい試みを試すのに時間もコストもかかりますが、クラスター内であれば低コストで行えますし、場合によっては成功を確信できる準備が整うまで延期することもできる。

クラスター内のプレッシャーが優位性を強化する。

クラスターに所属する企業は置かれている状況が似ていて、多くの競争相手が存在するため、互いに創造的にならざるを得ないプレッシャーが強くなります。つまり、ほかの地域にいるよりも強いプレッシャーがあるだけに、先に述べた3つのメリットがさらに強化されるのです。

クラスターがイノベーションを阻むリスク

しかし、クラスターに所属していることがかえってイノベーションを遅らせる可能性があることも指摘しています。

いつのまにかクラスター内で統一したルールのようなものが形成され、新しいアイデアが生まれにくくなる可能性があります。

また、本当に革新的なアイデアはクラスターから好まれないことも考えられます。つまり、それまでに培ってきたクラスターの優位性を無効化してしまうかもしれないからです。

要するにクラスターが硬直化してしまうということです。そうなるとクラスター自体が衰退してしまうことにもなります。

おわりに

クラスターは地域経済の活性化という視点から見ると、大いに参考になるものだと思います。クラスターはある程度、条件が整った所で自然発生的に出来上がるものだと思いますが、それを計画的に形成したり、促進しグレードアップしたりするには、政府や地方自治体の役割が欠かせないでしょう。

日本政府も21世紀に入ってさかんにクラスター関連の計画を推進してきたようですが、実質的な成果はどうなっているのでしょうか。関心のある方は調べてみてはいかがでしょうか。この辺りは今後追加していきたいところです。

もっと詳しく学びたい人のための参考文献

マイケル・ポーター「競争戦略論Ⅱ(新版)」ダイヤモンド社、2018年

ここで紹介した内容は、この本の第2章からのものですが、そのすべてをうまくまとめられているわけではなく、あくまでも一部分です。興味がある方はぜひ全文を読んでみてください。

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