ハーズバーグの動機付け・衛生理論(二要因理論)ー従業員をやる気にさせるのは何か?

ハーズバーグ

ハーズバーグについて

ハーズバーグ(Frederick Herzberg 1923-2000)はアメリカの臨床心理学者で、経営に関する研究でもよく知られています。ユタ大学では経営学部で教鞭をとっていて、動機付けに関する多くの業績を残しています。

ハーズバーグの業績の中で、経営学の分野で有名なのは「動機付け・衛生理論」(二要因理論)と呼ばれるものです。ここではその「動機付け・衛生理論」について説明します。

人間をやる気にさせるのは何か?

動機付け理論の中に「内容理論」というものがあります。かんたんに言うと、人間は「何によってやる気になるのか」、ということを追求する分野です。動機付け、すなわちモチベーション論において、「何が人間をやる気にさせるのか」というのは大変重要で難しい問題です。

それはお金でしょうか、役職でしょうか、人間関係でしょうか。

多くの人にあまり深く考えない状態で、やる気に影響するのはどのようなことでしょうか?と聞くと、かなりの人が「給料」と答えます。本当にそうでしょうか。

別の記事で取り上げた「テイラーの科学的管理法」は、労働者の賃金をどう決めるのかということが大きな課題の一つで、そこには賃金が人間のやる気につながるという前提があったように思います。

ですが、その後の人間関係論では職場の人間関係がやる気に影響を与えるということが述べられ、人間は経済的なものだけでなく、人間関係とか感情に影響を受けることが指摘されました。

確かに、職場の人間関係は働くものにとってとても重要なものです。上司や同僚との関係が良くないと、職場に行くのが苦痛です。

では、やる気と人間関係は関係あるでしょうか。あると言えばあるし、ないと言えばないような、微妙な感じではないでしょうか。

こんなやりとりをした後で、再度、何がやる気に影響しているでしょうか? と聞くと、答えにつまったり、もっといろいろな答えが出てくるようになります。

やる気に影響を与える要因はたくさんあると思います。給料、人間関係、職場の労働環境、責任、役職、などなど、どれも影響がありそうです。

しかし、何がやる気につながるかが明確でないと、経営的には何をどうすればいいのかわからなくなってしまいます。なんでもかんでも良くしていけばいいというものでもなさそうですし、経営していく上では現実的に難しいでしょう。経営は色々な制約のもとで最も良い形を模索していかなければならないからです。つまり、意味のある手を打たなければいけないのです。

動機付け・衛生理論(二要因理論)

このような課題に一つの答えを提供してくれたのが、ハーズバーグの「動機付け・衛生理論」です。あらかじめ、かんたんに内容を説明しておきます。

彼は多くの調査から、従業員に「満足をもたらす要因」と「不満をもたらす要因」とは必ずしも同じではないことを明らかにしました。「満足をもたらす要因」は動機付けにつながるものです。そして「不満をもたらす要因」は不満の予防にはつながりますが、動機付けにはつながらないということです。

このことにどのような意味があるのかというと、人をやる気にさせるには「満足をもたらす要因」に働きかけることが重要だということです。つまり、なんでもかんでも良くすればいいということではないですし、良くしたところで動機付けにつながらないものもあるということです。

ここでいう、「満足をもたらす要因」を「動機付け要因」と呼び、「不満をもたらす要因」を「衛生要因」と呼んでいます。

「衛生要因」

まずは、「衛生要因」から説明していきます。

衛生要因というのは、先に述べた通り、不満をもたらす要因です。これは不満足の回避や仕事以外のところに存在するもので、苦痛から逃れたいという生き物としての本能的な欲求に根ざしたものです。これらのものは不満を予防することにはつながりますが、これを良くしたからといってやる気にはなりません

具体的にはどんなものかというと、以下のようなものを挙げています。

  • 会社の方針と管理
  • 監督
  • 監督者との関係
  • 労働条件
  • 給与
  • 同僚との関係
  • 個人生活
  • 部下との関係
  • 身分
  • 保障(福利厚生など)

どうですか。意外ではないでしょうか。「給与」が入っていますね。つまり、給与が低ければ不満にはなりますが、良くなったからといってやる気にはつながらないということです。

そう言われてみればうなずけます。給与が増えると嬉しいですが、じゃあその分頑張ろうと思うかというとそうではありません。それにそのうちそれが当たり前と思うようになりますし、下げられると大きな不満になります。

また、「人間関係」も衛生要因の一つです。人間関係が悪いと職場に行くのが憂鬱になりますが、良くなったからといって今まで以上に頑張るかというとそうではありません。

これらは主に仕事そのものではない要因です。こうした要因は、良くすることで不満をやわらげることにはなりますが、やる気にはつながらないというわけです。

動機付け要因

では、「動機付け要因」はどうでしょうか。これは満足につながり、やる気を引き出すものです。人間ならではの性質によるもので、達成することの喜びとか、達成を通じて精神的成長を経験できる能力に関係しています。

具体的には以下のようなものです。

  • 達成
  • 承認
  • 仕事そのもの
  • 責任
  • 昇進
  • 成長

これらからわかることは、動機付け要因は仕事そのものやそれによって得られる成長に関係しているということです。

つまり、働く人をやる気にさせるためには、どんな仕事なのか、それによって達成感を得られたり、評価されたり、責任ある立場を与えられたり、精神的に成長できるか、ということが必要だということです。

では、この動機付け要因を良くするにはどうしたらよいかということですが、これについてハーズバーグが提唱しているのは、「仕事の充実化 job enrichment」というものです。

これは従来の職務内容に管理的な面を増加させることで、質的に豊かにすることです。かんたんに言えば、単に命令された通りに動けというのではなく、自分で決める権限を与え、責任を持って働けるように仕事の中身を設定し直すということです。

ここで参考までに、ハーズバーグが示した「満足と不満足の要因差」という図を紹介しておきます。

おわりに

ハーズバーグの動機付け・衛生理論は随分前に発表されたものですが、当時たいへんな衝撃を与えたそうです。それまでの常識を覆す画期的な内容だったからです。

ですが、現代ではそのまま受け入れられているわけではありません。図にも示されているように、それぞれの要因が完全に満足か不満足かにくっきり分けられるものではありません。給与や人間関係は確かに衛生要因的な面がありますが、それだけとも言い切れません。動機付け要因とされている達成や仕事そのものについても同様のことが言えます。

しかし、だからといってこれが現実的に使えないものかというとそうは思いません。完璧なものではないでしょうが、ある程度は支持できると思います。経営者や管理者がこのようなことを意識した上で、従業員への処遇や接し方を考えたり、組織や人事を検討するだけで職場はけっこう変わるのではないでしょうか。

もっと詳しく学びたい人のための参考文献

『仕事と人間性 ―動機づけー衛生理論の新展開』東洋経済新報社、1968年

『能率と人間性 ―絶望の時代における経営』東洋経済新報社、1978年

残念ながら、これらは中古でしか手に入りません。手に入れるには少々高くつきます。経営学部や経済学部のある大学の図書館で探してみてください。

ハーズバーグの有名な論文を収めたものとして以下のものがあります。

「動機づける力 モチベーションの理論と実践」ダイヤモンド社、2009年

これはハーバードビジネスレビューに載ったモチベーション関連の論文が収録されていますが、この本の第1章がハーズバーグの論文です。100万部以上のリプリントが売れたという歴史的な論文です。これは今でも新品を手に入れることができるはずです。

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